18世紀の哲学者イマヌエル・カントが道徳哲学と宗教論との緊張関係のなかで確立した「人間の尊厳」は、人権の基盤として近代以降の社会を基礎づけてきた。しかし現代では他方で、その内実曖昧さが問題視されてもいる。本研究の目的は、人間の尊厳概念の現代的意義を問うことであった。本研究は、法学や生命倫理学など領域横断的に論じられる人間の尊厳概念の考察をつうじて、この概念が現代社会において法実践的にも生命倫理学的にも依拠するに値する概念であることを明らかにした。さらに、この人間の尊厳概念から現代の価値多元社会で生じる諸問題に取り組むことで、この概念を規範性と柔軟性とを併せもつ概念であることを示してきた。
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