研究課題/領域番号 |
20K21949
|
研究機関 | 長崎外国語大学 |
研究代表者 |
新里 喜宣 長崎外国語大学, 外国語学部, 准教授 (90879868)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | シャーマニズム / 巫俗 / 言説 / 宗教 / 韓国 |
研究実績の概要 |
本研究は1990年代から2010年代までを中心に、韓国で巫俗に対する多様な視点が形成される過程を明らかにするものである。上記の目的のもと、2020年度は巫俗に対する政治的な次元における言説を収集、分析する作業を行った。 植民地時代において、巫俗は主に迷信として弾圧され、否定的に語られてきた。しかし、1945年の解放以降、主に民俗学を中心とする研究者によって、巫俗は韓国文化の源流として肯定的に描かれるようになった。彼らの言説が後押しとなって新聞や小説などでも巫俗を肯定的に描く内容が台頭し始めた。 他方、調査者のこれまでの研究では、巫俗に対する政治的な言説は集中的に取り扱えていなかった。研究者の言説が巫俗の社会的位置を押し上げたことは確かだが、研究者の言説を利用し、巫俗とナショナリズムを接合させ、統治を円滑に進めようとした政治的な次元の言説も、巫俗言説の形成過程を捉える上で非常に重要である。そのため本研究では、巫俗と政治とのかかわりを明らかにする作業を行った。 巫俗と政治の関係は、植民地時代、そしておよそ1970年代までは、一定の距離を保っていたように思える。ときに政治の側から巫俗への弾圧、迷信としてのレッテル貼りが行われたが、それは一過性のものであり、政治の側から巫俗に働きかけることは相対的に少なかった。しかし、1970年代以降は、政治が巫俗の文化的側面を利用し、選挙活動などに積極的に活用しようとする動きが見られた。また、巫俗の側も、1980年代、そして90年代以降、政治に積極的に協力することで、自らの位相を押し上げようとする活動を行ってきた。 以上の研究の成果については、「韓国巫俗と政治:近現代史の文脈から」(『越境する宗教史』(上巻)、久保田浩他編著、リトン、2020年11月)を通して発表することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究としては、1990年代から2010年代の巫俗言説に関して、主に政治的な次元に集中して調査を進めることができた。上記で挙げた論文でその成果を発表できたのは大きな収穫であった。 他方、巫俗言説は政治に留まるものではなく、新聞や雑誌、小説など、多様なメディアを通して形成されてきたものである。本研究の目的を達成するためには、1990年代から2010年代までを中心に、巫俗言説に対して総合的な観点からアプローチする必要がある。2020年度になし得た政治的な次元における巫俗言説への調査は、巫俗言説を総合的に検討した後、さらに意味があるものとなるだろう。巫俗言説への総合的な観点からのアプローチは今後の課題となるが、政治的な言説についての調査は行えたことを踏まえると、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
1990年代から2010年代までの巫俗言説に関して、新聞、雑誌、小説などの媒体を中心に、さらに調査を進めていく予定である。調査者はこれまで1945年から80年代までの巫俗言説に関して研究成果を発表してきたが、2021年度は、90年代以降の巫俗言説とそれ以前の巫俗言説を比較検討する内容の論文を執筆する予定である。調査結果は、韓国宗教学研究会が発行する『宗教学研究』、そしてソウル大学校宗教問題研究所が発行する『宗教と文化』などに投稿し、日本のみならず、韓国側にも積極的に発表する所存である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本来ならば韓国に調査旅行に行き、資料を収集するなどの調査を行う予定であったが、コロナ禍により調査に行けず、旅費として計上していた予算が余り、次年度使用が生ずることになった。2021年度はワクチンの接種などが進んで調査に行けることを希望しているが、もし行けない場合は、国際郵便なども用いて資料を収集することで、研究を進展させていく所存である。
|