本研究は、1990年代から現代までを対象として、韓国社会で巫俗(シャーマニズム)を文化・宗教と捉える認識がひろく共有され、それが巫俗を否定的に描く言説を抑制するようになる過程を明らかにすることを目的とする。 報告者の既存の研究により、1960年代から1980年代までの間に、それまで迷信として社会から批判的に捉えられていた巫俗が、民俗学や宗教学を専門とする研究者、そしてムーダン(巫者)たちの言論活動によって、韓国社会で文化・宗教として受け入れられていく過程が浮かび上がってきた。本研究では申請者のこれまでの研究を継承し、1990年代から現代までを対象として、巫俗を迷信として捉える視点が後退し、巫俗が文化・宗教として確固たる地位を固めていく諸相を解明しようとするものである。本研究は、既存の人類学・民俗学的な巫俗研究を補完し、韓国近現代史の文脈から巫俗を理解する際の一助になるという意義を持つ。 このような目的のもと、2023年度は、2022年3月9日に行われた、第20代大韓民国大統領選挙に注目して、学会発表を行った。本発表で注目したことは、大統領選挙の過程で「巫俗」という用語が大統領との関連で頻繁に言及された点である。とりわけ2016年の「崔順実ゲート」以降、巫俗は政治との関連のもと、しばしば否定的に語られてきた。これを踏まえ、発表では、崔順実ゲートの言説も参照しながら、第20代大統領選挙における巫俗言説から、現代韓国における巫俗の社会的地位を探った。調査の結果、巫俗が韓国社会において依然として否定的に語られながらも、同時に文化・宗教としての地位も確立している点、そして、このような巫俗への肯定的な認識が、巫俗を否定的に語る言説を抑制している点が明らかになった。
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