研究課題/領域番号 |
20K21956
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大竹 昌巳 京都大学, 文学研究科, 講師 (60884369)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 遼代漢語 / 声調 / 去声 / 入声 / 陽調 / 契丹語 / 語音調 |
研究実績の概要 |
2020年度(後期)はデータベースの構築およびそれに基づく遼代漢語声調の分析を中心に研究を進めた。 データベースは2種類作成した。1つは契丹小字文献中の漢語語彙を集成したもので、音節ごとに契丹小字表記、ローマ字転写、対応する漢字、出現頻度、対応する漢字音の情報(中古漢語における声母や声調の種類)等を入力した。もう1つは遼代漢字石刻文献中の契丹語語彙を集成したもので、音節ごとに漢字表記、漢字音の情報、想定される同音異声調字、用例、対応する契丹小字表記とローマ字転写、用例内での位置(語頭・語中・語末・単独)、典拠等を入力した。 このデータベースに基づいて遼代漢語音と契丹語音を分析し、以下の諸点を明らかにした。まず、漢語の契丹小字表記については、先行研究により随意的な特殊表記(余剰表記)の存在が知られているが、先行研究はこれを去声音節に特有の表記とみなしている。本研究では、余剰表記が陽平声音節にも用いられることを明らかにした上で、去声音節(全濁上声・次濁入声含む)と陽平声音節(全濁入声含む)とでは余剰表記の使用比率に明確な差があることを示した。さらに、別の特殊表記(中断表記)が存在し、漢語の陽調音節を表記するものであることを示した。また、契丹語の漢字表記については、漢語去声字が契丹語の重音節の表記に使用される頻度が明らかに高いこと、声調ごとに位置による使用頻度に差があり、陽調字は語頭で、陰調字が語末で使用される傾向があることを実証した。さらに、入声字の分布特徴から、遼代漢語では入声が非語末で短促調を保持し、語末では舒声に合流していたことを推定した。これらの結果から、契丹語は低く始まり高く終わる語音調を有したことが推定された。以上のように漢語・契丹語それぞれの文字表記のみからでは知ることのできなかった音韻的・音声的特徴を明らかにし、その成果を口頭発表として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、本年度は主に中心的課題を遂行するための前段階的研究を行なう予定であり、データベースの整備や周辺資料の探索・分析を主たる課題と考えていた。実際には、データベースの整備を進めた上で、さらに次年度(2021年度)の研究計画に含めていた遼代漢語の声調の分析を、先がけて本年度中に終えることができ、新たに重要な発見を得ることができた。周辺資料の探索としては、漢文史料『遼史』中の契丹語漢字音写に関して考察し、口頭発表を行なった。データベースについては今後さらに漢字音の細かい情報を付加するなど改訂が必要であり、周辺資料についても分析を終えていないものもあるが、前述の成果を加味すると、総じて想定していた以上の進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
取り組む課題内容については現状変更がないので、次年度については本年度積み残した一部課題とともに、当初の計画通り、遼代漢語の声母・韻母の分析を進める。上述の通り声調の分析は本年度中に実施済みであるが、今後、論文としてまとめ、学術誌への投稿を行なう。
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