敗戦前後における「日本浪曼派」の動向と、それに関わる諸状況を明らかにすべく、同派の近傍の雑誌である『文藝世紀』(中河與一編輯)に関係が深い作家の文業について、調査・分析を進めた。2022年度の主たる研究実績は、以下のとおりである。 (1)『文藝世紀』に掲載された太宰治の小説「不審庵」(1943年)について、分析と追加の調査を実施した。具体的には、戦時中の落語や寄席のありかたを示す文献・書籍を収集するとと同時に、落語を下敷きとする本作における「笑い」の位相について、さらに考察を深めた。なお「不審庵」に関しては、昨年度から本作に関する学術論文の構想を継続しているが、今年度も発表に至らなかった。 (2)『文藝世紀』に掲載された三島由紀夫「中世」(1945~1946年)について、直筆原稿(三島由紀夫文学館蔵)の調査を実施した。本作に関する先行研究では、戦中から戦後にかけて書き継がれた作品であることが、しばしば強調されてきた。しかし戦前と戦後、それぞれの直筆原稿を調査した結果、戦前の時点で作品の骨子は概ね定まっていたことが明らかとなった。 (3)昨年度に調査の機会を得た、三島由紀夫ならびに佐藤春夫の未公開書簡(計3通)について、分析ならびに関係資料の博捜を実施した。具体的には、書簡を送られた人物と三島(および佐藤)との関係について、書簡や関係資料の記述を手がかりに調査を実施し、内容とそこから浮き彫りになって来た問題点について整理した。現在は、調査内容を基に、前者に関する解題を執筆中である。
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