研究課題/領域番号 |
20K21959
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
重松 恵梨 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 助教 (80884113)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 語りにおける現在時制の歴史的変化 / 語りにおける現在時制の文体的効果 / 語りのタイポロジーの見直し / 過去時制語りと現在時制語りの違い |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近現代英語小説における語りのスタイルの一動向を、語りの時制(特に、語りにおける現在時制の使用方法)に着目して考察し、現在時制語りの革新性と可能性を明らかにすることである。当該目的を達成するために、当該年度は、語りにおける現在時制の使用方法が変容していく歴史的プロセスに焦点を当て、現在時制が、どのように、そしてなぜ語りの時制として機能するようになったのかを分析した。伝統的な過去時制で語られた物語にも、現在時制の使用は多く見受けられる。しかし、過去時制語りの文脈で使用される現在時制は、物語のプロットを進めることはせず、歴史的現在などの特別な使用法においても、語る時間と語られる時間の境界を曖昧にすることはない。一方、語りの時制としての現在時制は、物語のプロットを進め、語る時間と語られる時間の境界を曖昧にする。このように、過去時制語りに使用される現在時制と、現在時制語りで語りの時制として使用される現在時制は、全く逆の機能を持っているように見えるが、語りの時制としての現在時制は、伝統的に過去時制語りで使用されてきた現在時制の様々な用法が融合し展開していったものと考えられる。当該年度では、18世紀から21世紀の小説を実際に比較し、その変化のプロセスを、言語・文体レベルで例証した。当該年度の研究を通して、語りの時制としての現在時制が多様に発達してきたことを示し、次年度以降に取り組む予定の、語りの時制と知覚描写の関係性について議論する基盤を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、語りにおける現在時制の使用方法の変化を明らかにするために、18世紀から20世紀までの伝統的な過去時制語りの小説における現在時制の使用方法を、①直示的現在(語り手のコメントや読者への語りかけに使用され、 語り手「今」を指し示す現在時制で、プロットを中断する機能を持つ現在時制)、②歴史的現在(ある特定の過去の出来事の描写に使用され、その出来事を追体験させる等の効果を持つ現在時制)、③登場人物の直示的現在(直接話法や内的独白等の意識描写に用いられ、登場人物の「今」の視点を直接的に映し出す現在時制)の3つに類別し、これらの用法が、現在時制語りの現代小説において、どのように発展していったのかを分析した。また、語りのタイポロジーを見直し、時制の選択も、語りの状況を決定する重要な指標の一つであることを示し、さまざまなタイプの現在時制語りが、語りの時制としての現在時制の可能性を示唆していることを、Atwood、Hyland、McCarthy、Michell、Jamesなどの現在時制小説を事例に例証した。上記の研究成果は、学会で口頭発表した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、計画通り、語りにおける知覚描写に焦点を当て、知覚描写の歴史的変化を明らかにするとともに、過去時制語りと現在時制語りにおいて、知覚描写がもたらす意味的・文体的効果がどのように異なるのかを比較検証する。知覚描写に着目することで、語りの時制としての現在時制のメカニズムと機能を明らかにしたい。具体的には、Ali SmithやMargaret Atwoodの現在時制小説を事例に、現在時制語りにおける知覚描写の役割を、言語・文体的特徴(例:統語構造、口語性、話法、ダイクシス、語りの視点など)を詳細に分析し記述していくことで、明らかにする。上記内容の研究成果については、国際学会にて口頭発表するとともに、発表内容をまとめ国際誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、国際学会発表が中止となったため、その分の旅費を本年度は使う機会がなかった。次年度以降も新型コロナウイルスの影響で国際学会にはオンラインで参加することになるため、本年度の未使用分は、オンライン学会に必要な環境整備(大容量データ通信に長時間耐えうるパソコンやカメラ・マイクなどの購入)に充てる予定である。
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