研究実績の概要 |
本研究の目的は、近現代英語小説における語りのスタイルの一動向を、語りの時制(特に、語りにおける現在時制の使用方法)に着目して考察し、現在時制語りの革新性と可能性を明らかにすることである。本研究では、小説に使用される現在時制の中でも、特に現在時制語りの言語・文体的特徴を分析対象とし、1)小説における現在時制の使用方法の歴史的変遷、2)語りの時制としての現在時制の使用が物語構造に及ぼす影響とその文体的効果について分析した。 当該目的を達成するために、当該年度は、まず、現在時制で物語を語る傾向が強くなった現代英語小説を取り上げ、現在時制で語ることが小説の文体にどのような効果を与えているのかについて、事例を挙げながら考察した(スミスのHow to Be Both)。そして、本研究の計画に示していたように、前年度に取り組んだ、語りにおける現在時制の多様化の歴史的プロセスの研究成果をベースに、語りの時制と知覚描写の関係性についても分析した。具体的には、知覚描写の形式に着目し、18世紀から21世紀の小説を例に(デフォー、オースティン、ディケンズ、マンスフィールド、アトウッドの作品)、歴史的視点から言語・文体レベルで考察した。上記の研究成果は、国際学術誌(Journal of Literary Semantics, Language and Literature)にて成果発表を行った。 当該研究の研究期間全体を通して、伝統的な過去時制語りの小説での現在時制の使用方法(直示的現在、歴史的現在、登場人物の直示的現在)が語りの現在時制に変容するプロセスを記述し、現代の現在時制小説における物語の構造と文体的特徴を、現在時制と知覚描写の関係性に着目して分析することで、具体的な言語指標(ダイクシス、話法、語りの視点)を示しながら記述することができた。
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