研究課題/領域番号 |
20K21972
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
柳川 響 同志社大学, 文学部, 助教 (50876802)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 蒙求 / 古注 / 空海 / 聾瞽指帰 / 漢籍 |
研究実績の概要 |
本研究では、唐の李瀚が初学者のための教科書として編纂した『蒙求』に焦点を当て、『蒙求』の古注と本文の比較を行うことで、平安時代に作られた漢文体の作品の背景にある学問的基盤を明らかにしていくことを目的としている。二年の研究期間において、以下の三つの目的の達成を目指している。①『蒙求』の古注と空海の『聾瞽指帰』の本文を比較することで、空海がいかなる漢籍に基づいて『聾瞽指帰』を著述したか検討すること、②『蒙求』の標題を基に主要な漢籍から中国故事を横断的に収集し、古注と他の漢籍の本文とを照合することでデータを整理すること、③②の研究基盤を用いて平安時代の漢文作品の故事の受容を検証し、当時の知識人の学問的基盤を明らかにすることである。 2020年度は、主として①について研究を進めた。具体的には、『聾瞽指帰』に引用されている中国故事を『蒙求』の古注と比較することで、空海が『蒙求』の古注を利用した可能性について検証を進めている。当初の予定より研究が遅れ、まだ調査の途中であるため、結論付けるには至っていないが、空海が『蒙求』の古注またはそれに類する幼学書から中国故事を学んだ可能性をある程度指摘しうると考えている。この研究に関して、同志社大学国文学会秋季研究発表会(2020年12月6日、Zoomによるオンライン開催)で「『聾瞽指帰』における中国故事の受容」という題目で講演を行い、成果の一部を発表した。講演では、『蒙求』を含む幼学書の重要性とその受容について確認し、『蒙求』にはいかなる問題点や課題があるかを示し、『蒙求』の古注と共通性を見出せる表現を『聾瞽指帰』の中から摘記して検証した。講演で報告した内容については、その後の調査を踏まえたうえで、2021年度中に論文としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来であれば2020年度中に『蒙求』の古注と『聾瞽指帰』の本文の比較を終える予定であったが、まだ調査が完了していない。調査においては中国故事を中心に比較を進めているが、『聾瞽指帰』の表現が『蒙求』の古注とどの程度近似しているか、客観的に検証するため、他の漢籍の表現と比較を行う必要がある。特に、原典以外にも対象を広げ、故事を学ぶ際に利用された幼学書や類書、『文選』の李善注を含む諸注釈についても調査を行っているため、予定以上に時間が掛かっている。また、「阮脩杖頭」と「畢卓甕下」のように『蒙求』で対になっている句が『聾瞽指帰』の本文の近い所で使われていた例もあったため、『蒙求』の対句との関連性にも注目しながら調査を進めているところである。 したがって、現在の進捗状況としては、当初の計画よりやや遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は『蒙求』の古注と『聾瞽指帰』本文との比較を完了したうえで、上記②③の計画遂行に移る予定である。現在まで行ってきた調査の過程で蓄積しているデータもあるため、②の研究基盤の構築に活用しながら計画を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で学会参加費や旅費が不要になり、当初の計画に変更が生じたため。 次年度も学会がオンライン開催されるため、学会参加費や旅費が不要になる見込みである。そのため、書籍を含む物品購入に充てるなど、研究環境を充実させるための費用として支出する予定である。
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