研究課題
古ヌビア語は、アフリカ中部を中心に話されているナイル・サハラ言語ファイラムのうちの東スーダン諸語、そしてそのうちのヌビア諸語に属する言語です。この言語は、中世ヌビアのキリスト教三王国、すなわち、ノバティア王国、マクリア王国、アロディア王国にて、コプト文字に3種類のメロエ民衆文字を付け加えたヌビア文字で書かれ、キリスト教関連の羊皮紙写本や碑文などの書記記録が現存しています。古ヌビア語の直系とされる現代語としては、現代エジプト、および、スーダンに話者を有するノビーン語があり、ノビーン語以外にも、系統関係が近い、ドンゴラウィー語、クヌーズ・ヌビア語などの現代ヌビア諸語が存在します。本年度は先行研究によって提示された古ヌビア語の音素体系、特に母音の音素体系を再検討しました。調査方法としては、オランダの古ヌビア語研究者と共同で、古ヌビア語のテキストコーパスと語彙データベースを作りながら、出現する古ヌビア語の語彙を、現代ヌビア諸語の対応語と比較しました。この比較をもとに、未解決だった古ヌビア語の母音字重複の音価の推定を試みました。その結果、現代ヌビア語の長母音に母音字重複が合致する例が6例確認され,母音字重複は長母音を表していた可能性が高いことが確認されました。古ヌビア語の母音字はコプト語で用いられている母音字と同じであり、母音+声門閉鎖音を表すのか、長母音を表すのかが未解決のコプト語における母音字重複の音価について、それが長母音であるとする説を支持する一つの傍証となりました。そのほかに、古ヌビア語の声調と母音字重複の関係に関する分析のパイロットスタディも行いました。コーパスに関してはJapan Association for Digital Humanitiesで、母音音素に関しては日本オリエント学会で研究発表し、コーパスの成果はJADHのプロシーディングズ論文として出版されました。
2: おおむね順調に進展している
概ね、コーパスの開発と新たな母音字重複と長母音との対応の探査は順調に進展している。コーパス開発については、Japanese Association for Digital Humanitiesの2021年大会でVinent W.J. van Gerven Oeiと共同で発表し、プロシーディングズ論文に掲載されたほか、母音字重複と長母音との対応の分析の結果および古ヌビア語の声調のパイロットスタディは日本オリエント学会第63回年次大会で発表した。計画していた大英図書館やフランス国立図書館の古ヌビア語文献の現地調査は、コロナ危機のために、現地に渡航して研究することが出来ず、その分計画が遅れている。しかしながら、Vincent W.J. van Gerven Oei氏とのヌビア語文献テキストのコーパス化はかなり進展があった。また、アッティリ出土の新出文献などの新しい文献の分析も、刊行されている部分は行われた。遅れている現地調査のため、本助成の延長申請を行い、もう1年度延長されることが認可された。
さらに、現代ヌビア諸語は声調を有するため古ヌビア語にも声調があったと考えられるが、古ヌビア語の声調の研究は未だなされていなかった。そこで、今後は、母音字重複の声調との関係をより多くのデータを用いて明らかにしたうえで、現代ヌビア諸語と古ヌビア語の比較の結果から、古ヌビア語の声調の再建を推し進める。古ヌビア語の声調を十分再建しうる現代ヌビア諸語の語彙の声調の記述データが未だ不十分であるため、現代ヌビア諸語の声調に関しての記述的研究も行いたい。そのほか、Vincent W.J. van Gerven Oeiと共同研究・開発を行っている古ヌビア語インターリニア・コーパスについては、今年度中の完成・公開を目指している。van Gerven Oeiは外国人特別研究員(欧米短期)として今年度9月から来日し、集中的に共同研究・開発を行う予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 4件、 招待講演 11件) 図書 (2件) 備考 (3件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
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