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2020 年度 実施状況報告書

戦時言論統制下における小説表現の創出についての研究―太宰治を中心に―

研究課題

研究課題/領域番号 20K21978
研究機関香川高等専門学校

研究代表者

野口 尚志  香川高等専門学校, 一般教育科(高松キャンパス), 講師 (70882520)

研究期間 (年度) 2020-09-11 – 2022-03-31
キーワード言論統制 / アジア・太平洋戦争 / 太宰治 / 文学者と社会 / 思想戦
研究実績の概要

研究計画の初年度は、主に太宰治の作品に対象を絞って検討した。本研究の主な目的である、戦時下に言論統制を内面化する出版ジャーナリズムのなかで自己の表現をいかに実現するかという点の要諦は、ある程度見えてきたと思われる。
太宰の戦時体制への向き合い方は、反戦か迎合かを問うよりも、作家の立場をいかに擁護するかという点から考えることが有効であろうと思われる。たとえば、短編「畜犬談」では、戦時下の無用物とされる作家を犬になぞらえる。当時は、犬のなかでも軍用犬が最も有用とされていた時代だが、作品で描かれるのは雑種の捨て犬である。その犬の頼りにならない様子や弱さを戯画化し、笑いの対象としたうえで、そうした犬の評価を否定から肯定へと転じる結末によって、無用に思える存在の価値がどのあたりにあるかを語ろうとする。つまり、戦時に最も価値ある存在とされた兵隊の対極にある作家という存在を犬に託して描いた作品であることが見えてくるのだ。
一方、日米英開戦の日を描く「十二月八日」は、別種の問題をはらんだ作品であろうと思われる。当初の計画では、この作品に戦争を相対化する立場が貫かれていると考えていた。この作品は、作者の立場を反戦的とみるか好戦的とみるかで、評価が真っ二つに分かれている。いずれにも取れる作品なのである。ここに一石を投じるには、論者がいかにして客観性を保って論じるかが他の作品以上に求められることが明白となった。よって、作品を精緻に読むだけでは不足であり、作者の戦時下の作品を通時的に検討し直すことにこれまで以上に時間をかける必要性が生じてきた。
以上のように、当初の研究計画での目論見通りに進んでいる部分と、前提を考え直す必要の生まれた部分の双方を現在、見出している。しかしそれ自体、戦時下の作品の困難さ、それゆえに生じ得る多様さの発見といえる。この双方を軸に、今後の検討を慎重に進行させていきたい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

新型コロナウイルス感染症拡大による移動の困難は、研究の裏付けを取るための資料調査をかなりの部分、阻害している。県外への移動がはばかられるだけでなく、各地の大学図書館、資料館もほとんどが関係者以外の利用を謝絶している状況である。その分を購入可能な文献(たとえば「文藝時評大系」)や国会図書館などの公共図書館の複写サービスで補ってはいるが、それも限界がある。そのため、立論可能なテーマについても、論の裏付けとなる資料の不足から、論文化を保留している状況である。
ただし、研究の対象としている作品について、研究会(「太宰治スタディーズの会」)で発表できた点は大きかった。論の弱点や別角度からの読解の可能性が見えてきたからである。この点は活かしていきたい。

今後の研究の推進方策

今後は、文献入手の方法の模索と、論文の執筆法の再検討を行うことで、遅れを取り戻したい。
新型コロナウイルス感染症による移動の自粛や図書館・資料館の利用の可否が問題となる。こうした状況下で資料調査をどのように行うかを考えたい。各地の大学図書館はほぼ利用できないが、わずかに学外者を受け入れている機関は存在する。ただ、所在地が感染拡大地域であるため、そこへの移動の妥当性を検討する必要がある。また、国立国会図書館本館のある東京への移動の時期も感染拡大の状況を見ながら考えたい。
加えて、文献の複写サービスをさらに探し出すなどして資料の確保につとめ、できるだけ多くの論文を仕上げたい。論文の執筆方法も、この状況下で発表されている論文の方法などを参考にして調整したい。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルス感染症拡大のため、旅費をつかうことができなかった。今後は感染拡大の状況を考慮しながら各地の図書館・資料館に資料調査に赴きたい。地方大学の図書館にはわずかながら学外者を受け入れ始めているところも出ているので、そうした機関を探し、積極的に利用していきたい。
ただし、この状況下では今後も旅費をつかって文献調査に行く機会がなかなか訪れない可能性もある。その際には、書籍として復刻されている昭和戦前の資料を購入することも検討したい。そうした資料は高額であるため、これまではあくまで研究書を優先して購入したが、「文藝時評大系」など、過去の雑誌史料の一部を書籍化しているものもあり、直接資料を調査できない分をそうした文献で補いたい。また古書として流通している文献もインターネットを利用して探し出していきたい。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2021

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 〈女性独白体〉のなかの「十二月八日」の位置―〈国民の均質化〉という観点から2021

    • 著者名/発表者名
      野口尚志
    • 学会等名
      太宰治スタディーズの会例会

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公開日: 2021-12-27  

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