研究課題/領域番号 |
20K21985
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
朴 秀浄 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (70878248)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 性科学 / セクシュアリティ / ジェンダー / 告白 / 三島由紀夫 / 女形 / 性自認 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまで調査した内容を整理し、その成果を学会誌に投稿することに集中した。 まず、本研究の目的である日本の性科学と韓国(朝鮮)の性科学との相違を明らかにするために、西洋の性科学が日本を介して朝鮮に行き届いた経緯を詳細にたどりつつ、西洋の性科学と、それを受け入れた日本の性科学に見られる共通点に着目し、その共通点が、日本を介して性科学を受容した朝鮮では見当たらないといった違いを把握した。西洋において性科学が成立するに当たり、大きな役割を果たした当事者の語る「異常性欲」の告白、すなわち「症例」は、日本の性科学の資料でも散見されるが、朝鮮の文献ではあまり見られなかった。その理由について検討を加え、日本と朝鮮が性科学を受け入れた環境の違いが指摘できた。従来の研究では、日本に留学し、日本語の文献を通じて性科学の知識を渉猟した知識人を中心に、性科学の知が朝鮮に知られるようになったことは確認されていたものの、そのようにして性科学を受け入れた朝鮮において、日本、ひいては西洋と異なる側面は見当たらないかという疑問は提示されてこなかった。よって本研究は西洋・日本・朝鮮の性科学をめぐる総合的な研究を試みたことにその意義がある。 次に、性科学の知が文学作品に展開した事例を調査し、三島由紀夫の小説「女方」(1957)を分析した。性科学の言説を意欲的に学び、様々な作品に引用・反映してきた三島が、女形をめぐる性の言説を意識しながら小説を書いた蓋然性を考慮しつつ、作品に表象されている女形の性役割と性的指向とが、女形を性の病理として語る性科学の言説と連動していることを指摘した。こういった個別の作品に見られる性科学の言説については、次年度も引き続き分析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はコロナにより資料調査および資料確保に時間がかかったため、予想より進捗が遅れていたが、本年度は当初の計画通り、学会誌に2本の論文を投稿することで研究成果が公表できたため、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は性科学の知が朝鮮の文学作品に展開した事例を調査・分析し、日本の事例と比較することで日本と朝鮮における性科学の展開の相違をより実証的かつ具体的に考察したい。現在、目を通しているのは、李光洙『愛』(1938)であり、森鴎外や谷崎潤一郎の小説と比較できると思っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナによる緊急事態宣言を受け、国内調査の回数を減らし、海外学会もオンラインで参加したため、次年度使用額が生じた。次年度は日本と韓国、両国とも入国制限などを緩和すると思われるため、より積極的に現地調査に挑むことができると考えている。
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