本研究を通して、主に以下のことが確認できた。 (1)戦時下の教育目標が、内地人と本島人(台湾に居住する漢民族が中心)向け教科書の両方において、戦意高揚と戦時動員の完遂を指導的なイデオロギーに次第に傾斜していく共通性が確認できた。特に『国民学校令』が発布された後、こうした傾向がさらに顕著に認められた。「第四期」、「第五期」の教科書において、戦争に関連する課が大幅に増加し、イデオロギー教育が国語教育を圧迫する状況にあった。 (2)「国語」として日本語を教える教科書は、内容や構成において内地人と本島人の教育目標の違いで内容に異同があることが認められた。巻ごとに課の配置の変化もあれば、全巻を通した教育内容の変更も見られた。日本語非母国語話者への配慮は政策上ではあったものの、あくまで帝国の臣民として錬成し、戦争への自覚と貢献を促す教育目標は内地人用教科書に共通している。 (3)主に内地の文部当局から台湾総督府へ指示された教育内容が、一方向に植民地の教科書に反映されたものが多いものの、台湾発のコンテンツが内地に逆輸入されて、内地の教科書に採用された例も存在する。先住民の少女が招集された内地人教師のために荷物を運ぶ際に、不慮の事故で命を落とした事件を、戦争のための尊い犠牲として昇華させ、やがてそれは、本島人の漢民族だけでなく、内地にいる内地人の子供たちにも波及した。 (4)類似したテーマを扱ったコンテンツにおいて、内地人の教育対象よりも、むしろ植民地住民へ対する教育内容の方がより苛烈だった傾向が見られた。本島人用教科書にしか含まれていない課のほかに、同じタイトルの課でも、使用する文言や表現に、母国語話者と非母国語話者とで内容の修正を確認できた。 上記の研究成果を、口頭発表を経て、2021年度に学会誌『戦争と万葉集』や、2021年度青山学院大学国語国文会『青山語文』などに発表する予定を立てている。
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