研究課題/領域番号 |
20K21991
|
研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
後藤 はるか 駒澤大学, 総合教育研究部, 講師 (40751110)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | フランス20世紀文学 / フランス20世紀小説 / フランス現代演劇 / 現代文学 / ナタリー・サロート / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、フランス語作家ナタリー・サロートの文学作品の緻密な分析を総合的に行うことを通して、多様なジャンル(小説・詩・演劇・映像ほか)で変貌を遂げていった20世紀的な表現の展開を、新たな視点で捉えることを目ざしている。本年度は、新型コロナ感染症対策の国内外の状況が安定せず、計画していたフランス出張も断念することになったが、その一方で、サロートが作家としての道をつづけてゆく、その長い道のりの初期段階における激しい葛藤を、アメリカのサロート研究者であるアン・ジェファーソンの伝記がもたらした新たな情報とともに作品分析を通して検討をすすめ、その成果を、駒澤大学の紀要『外国語論集』第30号に「ナタリー・サロートのはじまりのトロピスム」と題して発表した。これを通して、20世紀的というよりも、21世紀的な問題といえるような問題(とりわけジェンダーの問題、家族の問題など)と照応するような作家の感性が浮かびあがった点は、この研究がその先に見据えている、21世紀における文学の未来についての考察に結びつくものといえる。サロートの発想やものの感じ方は、ただ新しいということではない。それは、フョードル・ドストエフスキーのような19世紀の小説家、そしてまた、20世紀でも戦前の作家であるマルセル・プルーストの影響によるものであることも明らかである。また、とくに、20世紀に活躍した女性作家としてのサロートの在り方、考え方が、ヴァージニア・ウルフともシモーヌ・ド・ボーヴォワールとも、まったく異なるものであるということも明らかになった。これまで重視されることがあまりなかったといえるこの視点をより具体的に検討することは、作家の活動の初期を語る「ヌーヴォー・ロマンの作家」としての位置づけを一度とりはらい、作家の創作活動の全体から改めて位置づけしなおそうとする本研究にとっての新たな課題となったといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症対策の状況下で、4月より着任した駒澤大学の個人研究室のパソコンやプリンタをはじめとする機器の設置などは通常より遅れることになったが、それでも、秋にはすみやかに体制を整えることができた。また、これまで入手できずにいた本研究に必要な資料を幅広く収集しはじめることもでき、準備段階から、十分に充実した研究のはじまりへとすみやかに移行することができた。 本研究は、サロートの作品分析を、1)初期の『トロピスム』から『プラネタリウム』までの50年代、2)中期の『黄金の果実』から『あの彼らの声が…』までの60年代から70年代初頭、3)そして独特の対話の形式で作品がつくられる70年代と80年代の『言葉の使い方』そして『子供時代』から『あけて』までの三段階に分けて進めており、現在は、1)から2)への移行期にあるといえる。 フランスへの出張が困難となり、資料収集は和書を中心に行うことになった。年度末に、駒澤大学の紀要『外国語論集』第30号に「ナタリー・サロートのはじまりのトロピスム」と題して発表した。とくに、ナタリー・サロートの女性作家としての初期の葛藤をたどりながら、ヴァージニア・ウルフやシモーヌ・ド・ボーヴォワールといった女性作家たちの方法や考え方などへと、考察のための比較対象を拡大したことで、20世紀の時代の文学的感性のうごきを新しい視点で捉えるために必要な今後の分析のための、重要な手がかりをみつけることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
国内外の新型コロナ感染対策状況が安定せず、二年度目についても期待していたフランス出張が叶わないまま過ぎる可能性が大いにあるため、それを想定し、効率のよい研究を進めてゆく必要がある。本研究は、フランス作家の多様なジャンルにおける表現を研究対象とすることから、とりわけ視聴覚資料へのアクセスという点で、フランス出張へ出張し、おもにBnF(フランス国立図書館)、INA(フランス国立視聴覚研究所)およびポンピドゥー・センター公立情報図書館、パリ第3大学図書館、パリ市立図書館における調査、研究資料の収集を行うことは非常に重要な要素である。今後の現状の変化に柔軟に対応できるよう準備をしておきたい。二年度目の前半は、フランス出張で直接行う予定であった洋書や視聴覚資料を、可能な限り国内から収集するよう力を入れていきたい。また一年度目と同様に、国内でできることを優先した具体的な分析作業を進めてゆくようにする。とくに所属先である駒澤大学の紀要を中心とした媒体に論文を発表することで、研究の進展を活気づけてゆきたい。 本研究における、1)19世紀文学から継承された要素がどのようにサロートによる文学表現をうごかしたのか、2)それが20世紀という時代のなかでいかなる表現方法へと作家を導いたのか(小説、劇とラジオの作品での多様な分野において)、3)この作家の仕事が文学史上でどのように位置づけられるのか(作家の活動の初期を語る「ヌーヴォー・ロマンの作家」としての位置づけではない、作家の創作活動の全体像からの位置づけの再検討)といった問いは、一つずつ順番に検討するというよりも、より効果的な考察ができるよう、総合的に検討してゆく。研究を進めるにあたって、広い視野を維持しながら、しかし緻密な作品分析を遂行することで、新たな成果を導びきだしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究のための資料として購入しようと注文した書籍が、年度末になって在庫切れでキャンセルとなってしまったことから、次年度使用額が生じることになりました。
|