研究課題/領域番号 |
20K21992
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
金田 迪子 実践女子大学, 文学部, 助教 (30876941)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 英米文学 / 現代演劇 / イギリス演劇 / キャリル・チャーチル / ハロルド・ピンター / ポスト冷戦期 / ユーゴスラヴィア空爆 / 反戦運動 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代イギリスの劇作家キャリル・チャーチルの後期作品と、同時代のユーゴスラヴィア空爆反対運動との連関を明らかにすることを目指すものである。本研究には、ポスト冷戦期における政治的変動とそれに呼応する市民運動が、現代イギリスの文学作品を形成する要因の一つであることを明らかにするとともに、チャーチルおよび同時代のイギリスの劇作家の作品と作家たちの市民運動への参加の実態を検証することで、同時代の社会の状況と密接な結びつきを保ちながら展開してきた現代イギリス演劇の特徴を明らかにすることができるという意義がある。 本年度の研究の成果としては、立ち遅れていたユーゴスラヴィア空爆反対運動の実態の調査に着手し、(1)現代イギリス演劇における戦争表象研究の資料の活用を通してユーゴスラヴィア空爆反対運動の位置付けを明らかにできたこと、(2)現代演劇およびパフォーマンスと反戦運動の関係を分析する先行研究を活用してユーゴスラヴィア空爆反対運動の実態の調査を進められたことの2点が挙げられる。ユーゴスラヴィア空爆と演劇作品の関係については先行研究がほとんど見られなかったが、湾岸戦争からイラク戦争にかけての現代の戦争と現代イギリス演劇の関係に関する研究は豊富に存在し、それらにおける記述を収集することで、関わりの深い具体的な作品や作家を特定することができた。またイラク戦争反対運動と演劇およびパフォーマンスの関係に関する先行研究などを参考に、中心的なデモ運動などを参照項として新聞記事等を利用した調査を行うことにより、デモの主催団体やアーカイヴの所在等の情報を得ることができた。これらの調査を通して、本課題の対象となるユーゴスラヴィア空爆反対運動が、直後に続くイラク戦争反対運動と主催団体等を共有する等の連続性を持つ、その前段階にあたるような反戦運動として想定されうる事がわかり、研究が大きく前進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度中も新型コロナウイルス感染症拡大対策による渡航制限のために海外調査を見送り、予定していた計画よりも遅れる形となった。一方でユーゴスラヴィア空爆反対運動に関する資料の収集は順調に進行し、エッセイやインタビュー、関連する先行研究等の二次資料の調査を進めることができた。これにより海外調査の準備も進められている。 令和2年度に予定していたユーゴスラヴィア空爆反対運動の実態に関する調査に関しては、おおむね順調に進行している。現代イギリス演劇における戦争の表象を論じる先行研究から、ニコラス・ケント、ハワード・ブレントン、ハロルド・ピンター等の積極的に反戦運動への参加を表明している劇作家を特定し、それらの作家のエッセイやインタビュー等の調査を通し、同時代の言説に関する資料の収集を進めることができた。次年度の作業としては、収集した資料の調査を行うのみとなった。 令和3年度に予定していたチャーチルの後期作品の分析については、先行研究の調査が完了し、検討を進めている。また調査を進めて行く中で、ケントやブレントン、ピンターによるユーゴスラヴィア空爆反対運動との関連が明確な作品群が明らかになったため、当初の計画ではチャーチルの複数の後期作品と反戦運動との関連に重点を置いていたが、他の作家の作品とチャーチルの作品との比較分析を行うことも検討している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度中に海外調査を実施することで研究の完了が見込める。 最終年度である次年度の前半は、海外調査の準備を中心に進め、夏頃を目途にロンドンを中心とするイギリスでの海外調査を実施する。本年度の調査により明らかになった、ロンドンにおけるユーゴスラヴィア空爆反対デモの主催団体および団体に関する資料を所蔵しているアーカイヴ、反戦運動に積極的に参加していた劇作家による作品を上演していた劇場、上演映像を所蔵しているアーカイヴ等を訪問し資料の閲覧を行う。また、国内から利用できるデータベースで確認できなかった新聞記事や雑誌、テレビ番組等の資料の調査も検討している。 次年度の後半は、海外調査の結果を口頭発表の形で発表するための準備を進める。 本研究課題の成果は最終年度の秋以降に国内学会において口頭発表を行い、2023年中に論文として発表することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大に伴う渡航制限により、海外調査が延期となったため、旅費および調査に必要な経費が次年度使用額として生じている。
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