研究課題/領域番号 |
20K21992
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
金田 迪子 実践女子大学, 文学部, 助教 (30876941)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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キーワード | 英米文学 / 現代演劇 / イギリス演劇 / キャリル・チャーチル / ハロルド・ピンター / ポスト冷戦期 / ユーゴスラヴィア空爆 / 反戦運動 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代イギリスの劇作家キャリル・チャーチルの後期作品と、同時代のユーゴスラヴィア空爆反対運動との連関を明らかにすることを目指すものである。本研究には、ポスト冷戦期における政治的変動とそれに呼応する市民運動が、現代イギリスの文学作品を形成する要因の一つであることを明らかにするとともに、チャーチルおよび同時代のイギリスの劇作家の作品と作家たちの市民運動への参加の実態を検証することで、同時代の社会の状況と密接な結びつきを保ちながら展開してきた現代イギリス演劇の特徴を明らかにすることができるという意義がある。 本年度の研究の成果としては、(1)イギリスのウォーリック大学Modern Record Centre(MRC)、大英博物館、BFI(British Film Institute)の資料館における海外調査を実施し、関連資料を収集することができた。また、(2)上記の成果に基づく日本英文学会第95回全国大会研究報告への応募が採択された。 本年度は研究期間中初めてとなるイギリスへの海外調査に赴き、ユーゴスラヴィア空爆反対運動の実態に関する資料を収集することができた。とりわけウォーリック大学MRCではLabour CND内の空爆反対キャンペーンに関するデモの告知やトニー・ブレア首相に対する抗議の手紙等の貴重な資料を確認することができた。また大英博物館やBFIでは同時代のユーゴスラヴィア空爆に関する報道映像やテレビ番組等を調査し、メディアにおけるユーゴスラヴィア空爆の表象に関する分析を進めることができた。これらの調査の結果を踏まえ、前年度までの調査で明らかになったユーゴスラヴィア空爆に関わりの深いイギリス人劇作家の内、ハロルド・ピンター、ハワード・ブレントン・キャリル・チャーチルの三人のユーゴスラヴィア空爆反対運動への関わりと作品の連関について研究報告を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は新型コロナウイルス感染症拡大対策による渡航制限が緩和され、予定していたロンドンでの海外調査を実施することができただけでなく、本研究の成果を日本英文学会第95回全国大会で発表することが確定し、研究が順調に進められた。 令和2年度に予定していたユーゴスラヴィア空爆反対運動の実態に関する調査に関しては、これまでの資料調査で所在を確定したイギリスの資料館等に収蔵されている資料の調査が終了し、研究報告を完成させる準備が整った。作家のエッセイやインタビュー、同時代の言説に関する資料についても主要なものが整っており、実地調査と資料調査に基づいた研究報告を作成する準備が整っている。 令和3年度に予定していたチャーチルの後期作品の分析については、引き続き検討を進めている。ユーゴスラヴィア空爆反対運動の調査が進んだことでチャーチルの当時置かれていた創作環境や劇作家間のネットワークが可視化され、コンテクストに基づく作品の分析が進展した。また同時代の劇作家の活動と作品についても資料の調査が進んだことで、チャーチルの作品とピンターやブレントン等の作品との比較検討が可能になり、同時代の劇作家の中でのチャーチルの位置づけに関する考察が進展した。これらの分析の成果は次年度に予定している研究報告にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究報告の結果を論文の形で発表し、研究を完了させることを見込んでいる。 予定していた研究報告が次年度の発表となったため、研究期間の延長を再度行った。次年度は論文化のために参照が必要な資料を追加で収集しつつ、研究成果の発表準備を進める。 本研究の論文化の際には、研究計画の段階で検討していた内容に加え、本研究で扱う劇作家及び作品がその中に位置づけられる戦後のイギリスのポリティカル・シアターの展開という広いコンテクストを参照し、本研究の意義および重要性をより明確化することを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究発表が次年度となったため、研究報告の完成、およびその後の論文化のために必要な資料の追加購入を見込んで予算の一部を次年度使用額に回した。 次年度使用額については、研究成果をより大きな文脈に位置づけ、本研究の意義および重要性を明らかにするために、イギリスのニュー・レフト運動やポリティカル・シアターに関する資料、ポスト冷戦期に関する国際関係論分野の資料、社会運動研究に関わる資料等、学際的な資料を追加で収集する。
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