本研究は、寺社縁起を題材とする能の作品につき、縁起説話の成立・展開史の中での能の位置を明らかにし、それら典拠縁起から能が構築される際の方法の解明を目指したものである。中でも、寺社縁起・宗教文学との関わりの深い黎明期・大成期の能を中心とし、奈良県 當麻寺の本尊「當麻曼陀羅図」の感得縁起を題材とする能《雲雀山》《當麻》、および香川県 志度寺の創建縁起を題材とする能《海士》について、特に検討した。その中で、これらの作品のもつ縁起展開史上の位置や、縁起の物語内容を換骨奪胎することでこれらの作品がいかなる意図のもとに構築されたのかを、明らかにすることができた。
|