研究課題/領域番号 |
20K22002
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研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
石井 悠加 四国大学, 文学部, 助教 (10881518)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 西行 / 時宗 / 絵巻 / 中世文学 / 和歌 |
研究実績の概要 |
本研究は、中世絵巻において主人公の詠歌場面が置かれることで、絵画と詞書の間に新たな解釈が生成されていく機構について、中世時宗の絵巻・和歌集などの文芸作品の基礎的研究と、彼らの関与が目されている『西行物語絵巻』研究の両面から迫り、解明するものである。 その目的達成のための当初の研究計画としては、『西行物語絵巻』の分析、時宗絵巻の分析、西行和歌と時宗和歌の分析という3つのアプローチを予定していた。そして現段階では、概ねこの3つのアプローチを交互に進めることができている。 しかし2020年度に流行した新型コロナウイルスの感染拡大防止政策の影響により、計画当初の予定であった伝本調査のための出張旅行を行うことができない状況が続いている。そのためやむを得ず、当初の目的は維持したままスタート地点を大幅に切り替えることとして、『西行物語絵巻』と西行和歌、中世時宗の絵巻文芸作品などについての諸伝本の徹底的調査は今後の課題とすることとして、中世時宗関連の先行研究・宗教的資料などを博捜した上での和歌・文芸関連の情報の摘出と体系化を研究のスタートにすることにした。入手困難な『定本時宗宗典(上・下)』をはじめとする高額図書の購入が科研費によって可能になった。このことで、当初の研究計画の段階では見出すことのできなかった新たな中世時宗の和歌観を見出すことができつつある。 また『西行物語絵巻』と中世時宗の絵巻群の諸伝本のうち、デジタル画像や影印などが入手可能なものについての調査を重ねた結果、『西行物語絵巻』が既に聖地・名所となっている景観を描くのに対して、中世時宗の絵巻群は、その主人公の旅によってこれから聖地・名所となる場所を描こうとするか、あるいは時に全く名所を描こうとする意図がないなどの可能性が見いだされた。両者の制作意図の差異がうかがわれることから、この可能性への注目は重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中世時宗絵巻と『西行物語絵巻』について、両者の制作意図の差異への注目が重要であるという上記の見通しを得た。そのため、宗祖一遍を主人公とした『一遍聖絵』『遊行上人縁起絵』以降の、その後の遊行上人などの行状を描いた絵巻作品における主人公の旅と和歌について、土地との関わりという点から『西行物語絵巻』との比較分析を進めている。『遊行縁起』などの『一遍聖絵』『遊行上人縁起絵』以降の時宗絵巻作品は、祖師伝絵巻としては比較的小品であり、その詞書や絵画描写にも重視されるところがなく、従来は時宗年譜の作成のための裏付けに使用されるなどの役割しか果たすことができていなかった。しかし今後は、その名所と詠歌の在り方の変遷を見ることで、時宗の絵巻制作意図と西行物語絵巻の関係を捉えていく上で存在意義の大きな資料になるはずである。 また『西行物語絵巻』については、旅の歌僧としての西行を主人公とする物語テクストが絵巻の素材として転換していく中で、聖地・名所の描かれ方と、西行の詠歌行為がどのように表現されているか、その関係性に生じる変化について捉えていく必要があることに気づき、諸伝本について場面ごとに調査を進めている。そして西行の和歌・時宗の和歌については、『時宗宗典』所収の『禅時論』など、時宗の文芸観の分析に資する資料に出会うことができている。その分析を慎重に進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、『西行物語絵巻』、中世時宗絵巻について詠歌場面を中心に総合的な分析を行い、西行和歌と時宗和歌との関わりという観点から、両者の交差点を追究していきたい。 とりわけ、西行物語絵巻と時宗絵巻の比較検証を行うに際しては、両者において重要な役割を果たしている「熊野」「吉野」の場面に注目していきたい。この二つの土地を訪れる西行を描くかどうかという点は、西行物語絵巻の伝本の系統を見分ける基準となるものである。また「熊野」と「吉野」は時宗において重視される場所でもある。 本研究の成果の発表先として、2021年度の西行学会または中世文学会秋季大会を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、調査旅行を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染対策のため、用務地への出張許可が下りなかった。そのため図書購入費に予算を振り替えることとなったが、その残額によって2021年度の使用額が生じることになった。よって、2021年度内に調査旅行の許可が下りることになった場合には残額をその費用に充て、引き続き出張の自粛が求められる場合には図書購入費に充てる予定である。
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