本研究では、資料研究(アフォリズムの文体・書法の体系的考察)、実証研究(出版・書誌資料を通じたアフォリズム成立までの実態調査)、文化研究(メディア論、書物史、文化技術史などを踏まえた基礎研究)という三点から、研究の遂行を目指した。 最終年度は、第一に、春季日本独文学会(オンライン)にて編集文献学をテーマにしたシンポジウムが、夏には国際ゲルマニスト学会IVG(パレルモ/オンライン)でドイツ語による個人研究発表が当初の予定通りに実施され、本研究のとりわけ「実証研究」と「文化研究」に関わる成果を報告できた。なかでもドイツ語圏の大規模な国際学会IVGにて本研究活動を発信した意義は大きく、国内にとどまらない国際的に高い水準から本研究内容を問う機会が得られたことは特筆しておきたい。同学会での成果報告としてペーターラング社の国際論集への論文掲載が既に確定している。 両発表ともにロマン派の作家シュレーゲルに焦点を当て、彼のアフォリズム群(遺稿)の編纂に関わった歴代の編集者の出版意図や編集方針をまとめながら、各版の活字体裁の変遷から受容史に至るまで多角的に検討した。これを通じて、そもそも近代アフォリズムとは、遺稿における不連続的な着想の集積を編集することではじめて受容・研究可能なものとして成立するということ、こうした遺稿・草稿編集というプロセスがアフォリズムにとって極めて重大であることが改めて確認できた。 第二に、シュレーゲルの文献学的な書記実践のうちに、ドイツ啓蒙期における学者文化の「伝統」と、そのロマン派的な「革新」という双方に関連する文化技術が見出せることを明らかにし、その成果を上記「資料研究」の範疇として国際論集(ドイツ語)で報告した。 この他にも、冬に筑波大学主催の講演会に招待され、文学部や社会学部の学部生、韓国からの留学生に向けた本研究のアウトリーチ活動の機会にも恵まれた。
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