最終年度の実施内容としては、①バスク語文学とその翻訳をめぐる研究の継続・発展、②バスク語文学および他の少数言語文学と翻訳に関する文献の収集、③他の少数言語文学・翻訳研究者との交流や情報交換に初年度と同じく取り組みつつ、特に①における成果発表およびアウトリーチ活動の展開を目指すことを計画していた。 その計画のもと、まず、初年度に行なった研究発表を発展させる形で、少数言語文学においてしばしば起きるメジャー言語への自己翻訳が行われた作品を、他の言語(例えば日本語)にいかに翻訳するか、そしてそこで1つの選択肢となる折衷訳のストラテジーについて、国内の学術誌への投稿論文の執筆に取り組んだ。残念ながら年度内の刊行には至らなかったが、査読の過程でさまざまな指摘や気づきが得られたため、次年度中の刊行を目指して改稿する予定である。 ①に関してはその他、バスク大学夏季講座での招待講演でバスク語文学の翻訳とその日本におけるコンテクストについて論じ、同テーマでの論考の執筆と国内の一般向け書籍への寄稿を行なった。関連する論文の執筆にも取り組み、次年度中の刊行を見込んでいる。また、初年度に出版したバスク語文学の拙訳『アコーディオン弾きの息子』が、スペイン・バスク自治州でエチェパレ=ラボラルクチャ翻訳賞を受賞した。コロナ禍で渡航が困難ななか、特に上記のバスク大学夏季講座での講演や翻訳賞の授賞式(いずれもオンライン)で、現地の研究者や作家、翻訳関係者と久々に話し合う場を持てたことは、③の観点からも非常に有意義であった。 ②については、初年度に収集したさまざまな少数言語文学の文献を比較したほか、近年のバスク語文学で自己翻訳が行われた作品を中心に書籍を集め、その翻訳ストラテジーを検討した。これらに関しては、これまでの視野を広げ、問題意識を再検討するのに大きく役立ったため、今後の研究にぜひ生かしていきたい。
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