研究課題/領域番号 |
20K22007
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大下 理世 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (20880983)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 公的記憶 / ドイツ / 冷戦 / ブラント政権 |
研究実績の概要 |
本研究は、旧西ドイツ(1949-1990)のヴィリー・ブラント政権下(社会民主党・自由民主党連立政権;1969~1974年)の行政機関によって企画された歴史展示とそれをめぐる議論の展開を検討する。具体的な論点は、[A]. 「歴史意識の醸成」を目的とする歴史展示――「1871年―ドイツ史を問う」(連邦内務省)――の内容と東ドイツの影響、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響の二点である。本研究は、これらの課題に取り組むことで、ブラント政権がどのような過去に関する記憶を「立場・世代を越えて語り継がれるべき記憶」(以下、公的記憶)とみなしたのか、そして、その記憶を国民に共有するためにどのような試みがなされたのか解明することを目指すものである。 2020年度は、課題[A]について、まず、連邦内務省主導の1971年の歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」で19世紀のどのような歴史的出来事に重点が置かれているのか、そして、そうした出来事が現代の西ドイツといかに関係づけられたかについて、当時の常設展示カタログの内容を分析することで明らかにした。次に、ブラント政権下の緊張緩和政策を背景とする、東ドイツとの新たな関係が歴史展示の内容に与えた影響を検討した。その際、東ドイツ政府の態度とその歴史利用について、歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」の企画・運営の担い手がいかに意識していたのかについて、連邦内務省文書の企画案に関する史料から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が設定した二つの研究領域([A]. 「歴史意識の醸成」を目的とする歴史展示――「1871年―ドイツ史を問う」(連邦内務省)――の内容と東ドイツの影響、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響)の内、2020年度は、[A]に取り組み、第一に、連邦内務省主導の1971年の歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」の内容について、当時の展示カタログを分析すること、そして、第二に、東ドイツ政府の態度とその歴史利用を、展示の担い手がいかに意識していたのかについて、連邦内務省文書の企画案から考察することを予定していた。 2020年度は、まず、歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」の企画段階に関する連邦内務省文書と1971年の設立時の常設展示カタログを分析することで、同展示の重点が19世紀の議会主義の発展の歴史に置かれていること、そして、それが現代の西ドイツの基本法秩序の起源として位置づけられたことを明らかにした。次に、同展示の企画段階において担い手が、1950年代に東ドイツですでに国立の歴史博物館が設立されていたことを意識していたことを、連邦内務省文書を通じて明らかにした。以上、[A]の研究成果について、2021年3月のDESK主催国際ワークショップで報告を行った。なお、2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で当初予定していた渡航調査ができなかったため、上記課題[B]で必要な連邦文書館史料の収集は2021年度に行う予定である。 したがって全体としては、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、ヴィリー・ブラント政権下(1969~1974年)の歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」の内容とそれに対する国民、特に歴史の専門家である歴史家の評価を分析することで、この試みの成果と課題を明らかにすることを目的とするものである。 本研究が設定した二つの研究領域([A]. 「歴史意識の醸成」を目的とする歴史展示――「1871年―ドイツ史を問う」(連邦内務省)――の内容と東ドイツの影響、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響)の内、2021年度は、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響に取り組む予定である。その際、第一に、歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」の訪問者や当時の歴史家がこの試みをどう評価したのか検討する。そのため、まず、連邦内務省文書に収録されている記録を通じて当時の訪問者の意見を検討することで、この歴史展示が多くの訪問者を獲得できた理由を分析する。第二に、当時の歴史家がこの展示の成果と課題をいかに認識したのか、そして、歴史展示にあらわれた歴史認識に関する批判について、同時代のメディアでの報道や新聞・雑誌への歴史家の寄稿文の内容から分析する。第三に、歴史展示の政治的意図に対する歴史家の見解を検討する。そのため、歴史展示の構想に協力した歴史家ロタール・ガルやテオドーア・シーダーが、歴史展示の「歴史意識の醸成」という目的に対していかなる立場をとったのかについて、新聞・雑誌への寄稿文と連邦文書館所蔵の個人文書から明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症拡大のため、当初予定していた渡航調査を行うことができなかったため次年度使用額が生じた。2021年度の研究費の使途としては、①ドイツのコーブレンツ連邦文書館で史料収集で行うためのドイツに渡航する際の渡航費、②ドイツの文書館および国内で収集可能な史資料の文献複写費用、③参考文献の購入のための文献購入費を予定している。
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