本研究は、旧西ドイツ(1949-1990)のヴィリー・ブラント政権下(社会民主党・自由民主党連立政権;1969-1974年)の行政機関によって企画された歴史展示とそれをめぐる議論の展開を検討するものである。具体的な論点は、[A]. 「歴史意識の醸成」を目的とする歴史展示――「1871年―ドイツ史を問う」(連邦内務省)――の内容と東ドイツの影響、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響の二点である。本研究は、これらの課題に取り組むことで、ブラント政権がどのような過去に関する記憶を「立場・世代を越えて語り継がれるべき記憶」(以下、公的記憶)とみなしたのか、そして、その記憶を国民に共有するためにどのような試みがなされたのか解明することを目指すものである。 2020年度は、同歴史展示で19世紀のどのような歴史的出来事に重点が置かれているのか、さらに、東ドイツとの新たな関係が歴史展示の内容に与えた影響について、同展示のカタログや連邦内務省文書の企画案から検討した。2021年度は、2020年度の研究成果を踏まえ、同歴史展示の訪問者や当時の歴史家がこの試みをどう評価したのか検討した。具体的には、まず、連邦内務省文書に収録されている記録を通じて当時の訪問者の意見を検討した。次に、当時の歴史家がこの展示の成果と課題をいかに認識したのか、そして、歴史展示にあらわれた歴史認識に関する批判について検討した。その際、同時代のメディアでの報道や新聞・雑誌および、同時代にラシュタットで企画された「自由を求める運動のための想起の場」運営委員の議論に着目し、そこで比較対象とされたベルリンの歴史展示に対する歴史家の評価を刊行史料から検討した。補助事業期間延長が承認された2022年度には、引き続き同史料を通じて、歴史家によるベルリンの歴史展示の展望を考察した。
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