研究課題/領域番号 |
20K22008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
崎島 達矢 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (10880742)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 三府 / 都市 / 行財政 / 府県税 / 商法会議所 |
研究実績の概要 |
本研究は、三府における近代的都市行財政の形成過程を、①「三府の支配権の確立」②「大区小区制の府行財政システムの実態」③「大区小区制から三新法体制への移行」の三つの実態解明から分析している。③は、史料調査と研究遂行が困難であり進捗がみられなかったため、①と②について記す。 ①について、藩邸・蔵屋敷等の処分に関し京都府立京都学・歴彩館の「旧藩々邸奉還並売却一件」の調査・撮影を行なった。該文書は既に紹介されている文書だが、府庁と諸藩の往復文書の分析から、「悉皆上邸」という大蔵省に指示に対し、京都府では質入れされていた邸宅を債権者などの事情に鑑みて流質とするなどの現実的対応が取られていたことが確認できた。これは大阪府でも大蔵省の「考課状」から確認でき、京都・大阪両府では同じような独自の対応がとられていたことが明らかとなった。さらに大阪府と同様に、維新後に新たに政治・経済活動の拠点を求めて藩邸を設置しようとする事例も確認できた。京都・大阪の両府は、このような藩邸・蔵屋敷等の存廃や債務・債権関係の整理に関して主体的な対応をとることを通じて、管轄域に対する支配権の一元化を進めたと考えられる。 ②について、東京都公文書館にて府税関係史料の調査を行なった。主に本所・深川の材木問屋仲間が近世以来負担してきた川浚い冥加金が、明治期になって問屋税という「税」へ転化していく過程を素描した。府税は近世以来の慣行によっては営業者の側からの願い出に基づき設定されるケースがあり、設定後は新規開業者にも無条件で課され原則異議申し立ては認められないこと、特定の目的のためではなく普通税として徴収されることが明らかとなった。材木問屋税は東京府でこうした営業税の論理が形成される契機となっていた。 本年度の研究は昨年度の大枠を掴む作業を基礎として、具体的な事例に踏み込んだ検討ができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も引き続き新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、長距離の移動や図書館・文書館・史料館等の利用が制限されていたため、研究の進捗は予定よりも遅れた。ただし、昨年度研究材料の見直しをおこなったことを踏まえ、京都府立京都学・歴彩館や東京都公文書館の史料調査など一部を実施し、関連する刊行史料も入手することができた。京都、東京の史料を一部閲覧することができたことで、「研究実績の概要」で示した①・②の課題について、藩邸処分や府税の具体的な分析を行うことができ、成果としてまとめるにはさらに関係史料の調査と分析が必要であるが、大きな進展と評価できる。 一方で、③の課題については史料調査が実施できなかったことことを受けて、依然として研究史の整理と手元の史料の精読に終始し、それ以外はほとんど進展しなかった。そのため、「今後の研究の推進方策」に記すように分析対象を大阪に限定するなど研究計画の一部修正を検討せざるを得なかった。 以上の状況を踏まえ、進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
一・二年目で実施することができなかった現地での史料調査や追加調査を引き続き積極的に行いつつ、成果をまとめる段階へ入っていく。 ①については京都・大阪における藩邸処分とそこへの京阪両府の主体性という視角からまとめ、両府が近世以来の領主権力から都市の支配権を回収し、行政府としての地位を確立していった過程をまとめる。その反面で廃藩置県後の新県が京都・大阪における藩邸や蔵屋敷をどのように考え処分していったのかも明らかにする。 ②について、材木問屋の冥加金が府税へと転化する過程をまとめ、東京府における府税の課税と支出の論理を、官費・民費の関係から明らかにする。東京都公文書館の史料と、島田錦蔵編『江戸東京材木問屋組合正史』(大日本山林会、1976年)に所収の組合側の史料を突き合わせて事実関係を精査するとともに、拙稿「明治初期における都市財政構造の変容」(『史学雑誌』129(1)、2020年)で示した三府のデータを参照しつつ、三府の府税運用、財政構造の特徴をまとめ、論文として公表する予定である。 ③については、当初の計画より最も研究が遅れているため、分析対象を大阪府に限定する。まず延期していた大阪府公文書館と大阪市立中央図書館の府会議事録および関連史料の調査を実施する。大阪商法会議所資料が収録されている「五代友厚関係文書」も用いつつ、三新法体制下の行財政実務のあり方を明らかにし、学会報告あるいは論文として公表する予定である。可能であれば、東京商法会議所の成立経緯と行政との関係についても触れ、両者の比較を通した行財政の構造的違いについて展望したいと考える。 以上を総合し「三府における近代的都市行財政の形成過程」という本研究課題の成果としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響で都道府県をまたぐ移動を自粛したこと、また調査先の施設の利用制限等により十分な調査が実施できなかったこと、などにより計画していた史料調査のための旅費支出ができなかった。この調査は本研究課題の遂行に不可欠な史料調査であるため研究計画を延長することにした。これが次年度使用額が生じた主な理由である。 可能となった早い段階で出張調査を行い支出する予定である。具体的には、昨年度行った京都府立京都学歴彩館の追加調査、昨年度実施を見送った大阪市立中央図書館、大阪府公文書館への史料閲覧・撮影による収集である。 物品費は、文献に関しては研究遂行過程で新たに必要が生じた場合は支出を検討するが、すでに予定のものは支出済みである。その他の物品・印刷費等は調査による収集資料の整理、保存、分析に必要な物資に支出する予定である。
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