研究課題/領域番号 |
20K22011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小塩 慶 東京大学, 史料編纂所, 助教 (80880765)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 時代認識 / 古記録 |
研究実績の概要 |
1年目となる2020年度は、古記録に見える先例の調査を、本格的な私日記のはじめとされる『宇多天皇御記』以降、堀河天皇の治世まで行った。 調査では、「上古・中古・近代」等の時代区分用語にはあえて拘泥せず、先例として引勘されている時代や人物を網羅的に調査することで、平安貴族の日記に明確な言葉を以て現れることのない先例観を総体的に把握することを目指した。その際、年月日等が記されない事例に関しても、可能な限り時期を特定していく作業を並行して行った。それぞれの先例の根拠となる史料や言説についてもデータ化することで、個人の知識を構成する基盤や、その特徴・傾向についても一定の知見を得ることができた。この作業によって、特に承和・延喜・天暦・寛弘・延久などの、後に聖代として高く評価されることの多い時代について、それぞれの時代がいつから重視され始め、いつまで重視され続けるのかといった問題についても、具体的に検討する基礎的な準備が整ったといえる。 また調査の中で、これまで研究が十分になされていなかった摂関期以降の祥瑞に関して、従来知られない、あるいは注目されていない事例が複数存在することが判明した。これらの事例を再検討することにより、摂関期以降の祥瑞が六国史以前の祥瑞と様々な面で大きく異なることが判明した。当該期の祥瑞をめぐっては、中国的な思想からの離脱や国内事例への関心の高まりといった点が指摘できる。この内容について、東京大学史料編纂所内の研究発表会で口頭報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
古記録の網羅的な調査が堀河天皇の時代まで終了したことで、当初の研究目的の一つである延喜・天暦聖代について、これが先例として規範視された時期をほぼ特定することができた。加えて、先行研究の少ない摂関期以降の祥瑞に関しても新知見を得ることができ、時代観とも関わる問題を有していることが判明した。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き古記録の調査を進める。特に延喜・天暦の治について、実際の社会や儀式の先例としては参照されることが少なくなって以後、この時代がどのように史料に現れるのかについて、古記録のみならず説話集・史論書等も含めて検討を進めていく。また本年度の研究成果については、論文化を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルスの関係で出張が制限される状況が続いたため、旅費として想定していた額のほとんどを書籍購入に充てた。そのためわずかながら次年度使用額が生じたが、これは2021年度に書籍購入費に充てる予定である。
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