最終年度となる2021年度は、引き続き古記録に見える先例の調査を、鳥羽天皇の治世まで行った。また、いくつかの部類記等を調査して日記の逸文を収集し、既に作業を完了させた堀河天皇の治世までの時期についても事例を補足することができた。本研究で特に問題としたい延喜・天暦聖代観は、院政期初めには確実に存在したと考えられる。したがって古記録の調査はここで区切りをつけ、問題を相対化するために歴史物語や説話集に現れる時代認識の検討に移った。 その結果、平安貴族の日常の儀式や政務の中で重視される時代と、歴史物語や説話集において聖代とされる時代とは、必ずしも一致するわけではないことも明らかになりつつある。時代観・聖代観は、個人や時代の影響を受けやすいものであり、容易に一般化することは出来ない。したがって、各逸話の成立時期(作品の成立時期とはずれが生じる)を確定していく作業も必要となる。その事例研究のひとつとして、『古今著聞集』所載の説話と同類の話を載せる史料の調査も行った。なお本史料の調査については、当初所蔵機関での実見を予定していたが、COVID-19の影響をうけ、紙焼き写真の購入に振り替えた。以上の成果内容については、今後公表していく予定である。 一方で、昨年度より調査を続けている摂関期以降の祥瑞については、引き続き関連記事の捜索を行い検討を深めることができた。当該期の祥瑞には平安貴族の国内の時代認識も投影されていると考えられる。以上の内容は口頭報告を行い、当日の議論も踏まえて論文化し投稿した。
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