本研究は、高度成長期の歴史や文化をめぐる住民運動に即して、地域社会の変容とそのなかで顕在化する人びとの歴史意識について明らかにしようとするものである。具体的には、京都府南山城地域をフィールドとし、1973年に城陽市で「緑と教育と文化財を守る会」(現「城陽の緑と文化財を守る会」)が結成されるに至るまでの同地域における文化財をめぐる住民運動を対象とする。研究期間全体を通じて、以下の成果を得ることができた。 第一に、城陽の緑と文化財を守る会の関係者から聞き取りを実施することができた。そこでは長年の会における活動をはじめとした多岐にわたるお話を伺うことができた。 第二に、京都府立京都学・歴彩館、および城陽市歴史民俗資料館での史料調査を実施し、城陽団地自治会による住民運動に関する史料を収集することができた。財団法人日本労働者住宅協会の事業として建設された城陽団地では、自治会を中心に山砂利公害反対運動や保育所づくり運動、そして新しい小学校の建設を目指す運動などが展開された。同地域での文化財保存運動の盛り上がりの背景には、そうした城陽団地を中心とする住民運動の盛り上がりが背景にあることが収集した史料群から読み取ることができた。 第三に、研究期間内に実施した聞き取りの経験は、大阪歴史科学協議会帝国主義研究部会での報告「歴史のなかの〈声〉を「残すこと」―安岡健一氏のオーラルヒストリー論をめぐって」(オンライン開催、2023年3月30日)の内容に一部活かすことができた。
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