本研究は、1960年代から1970年初頭の東アジア地域において展開された旧植民地出身者の「国籍問題」を事例に、戦後日本の出入国管理政策の展開を、東アジア地域の文脈のなかで検討するものである。本研究は、1960年代半ばから1970年代初頭の時期を中心に、1サハリン残留朝鮮人の日本への帰還問題や、2在日朝鮮人の「国籍」をめぐる(登録証の「国籍欄」書き換え)運動、3沖縄の台湾人社会の帰化問題などを事例を検討することで、旧植民地出身者の国籍問題が日本国内の文脈に留まらず、東アジア地域の国籍問題として同時代的に提起されていた様相を考察するものである。 2022年度は、2020年度から2021年度にかけて検討してきた1960年代から1970年代初頭を中心とした(1) 地方自治体における外国人登録の運用の変遷(外国人登録証の「国籍欄」書き換えをめぐる争点)、 (2)サハリン残留朝鮮人の帰還問題にみる旧植民地出身者に対する国籍処理と移動管理の制度的変遷について、各地域のナショナリズムの問題や「他者」排除の論理などを射程に入れて、包括的に再検討することを試みた。加えて、戦後日本の出入国管理制度の運用方針に関わる点として、戦前戦後にかけての日本の出入国管理に関わる人脈と業務体制の成立プロセスがいかなる条件のもとで形成されていったのか、自治体や地域社会の現場の実践から再検討した。これらをつうじて、第一に、戦後日本における「日本国民」の枠組みの再編は、「国籍問題」に関する東アジア地域の戦後処理の位相と、人の移動の管理制度との関連のなかで重層的に深化していった側面があること、第二に、東アジア地域における「未帰還者」、「無国籍者」、在留権の有無を含む「無権利」状態の人びとが創出される過程が、各地域間における「国籍」概念の衝突やズレなどの緊張関係下との連動のもとで達成された経緯が明らかとなった。
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