最終年度の前半は、海外の砂糖生産地から植民地台湾への技術移転と、台湾における模造・改造農機具の流通を検討した論文を執筆した。その一部は東アジア近代史学会第27回研究大会にて発表し、得られたアドバイスをもとに同学会の会誌である『東アジア近代史』に投稿した。最終年度の後半には台湾渡航が解禁され、台湾の彰化県でフィールドワークをおこなうことがようやく可能になった。前年度までに進めていた先行研究および文献資料の検討で浮かび上がっていた論点について、高齢者に対するインタビューを通じて具体的な情報を収集することができた。また、台湾の環境史研究者と直接交流することで、研究のさらなる深化のためのアドバイスを得ることができた。 研究期間を通じて、植民地期台湾農村における農業技術の社会史の全体像について、見通しを得た。従来の日本植民地研究が日本帝国の中心から植民地への技術移転の過程を跡づけるにとどまっていたのに対して、移転先における利用者の経験を問い、その創造的営みの重要性を指摘した。特に、台湾農村における在来技術の利用、新技術の創作、農家間での技術のシェアリングなどの論点を指摘することができた。検討にあたっては、文献資料の検討のみならず、在来言語である台湾語を利用したインタビューを積極的に利用し、新たな研究方法論の構築を試みることができた。 加えて、以上の研究成果を日本語のみならず、中国語・英語の査読付ジャーナルで発信できたことも重要な成果といえる。
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