本研究は、3つの小課題[A]戦災者の住宅対策に関する研究、[B]復興をめぐる集合的記憶形成の力学に関する研究[C]復興をめぐる個人の記憶と経験に関する研究、に分けて、戦災復興期の住宅問題に関する歴史と記憶の解明を試みるものであった。延長期間となった本年度は、2021年度に得た資料の検討と、論文発表を中心とした。 ・課題[A]について、前年に実施した資料収集をもとに成果をまとめた。戦後広島における戦災復興が、住民の生活再建に与えた影響について、戦災都市復興事業、敗戦直後の住宅対策、住民の生活再建の相互影響関係を、1940年代の住宅問題に軸をおいて検討した。復興事業、住宅対策、戦災者援護は、空間や対象とする人を同じくしながらも相互に不連携な状況にあり、住宅確保の困難、援護の欠如、復興に伴う立退きといった、複数の側面で住民の生活再建を妨げたことを明らかにし、『居住福祉研究』33号、『日本災害復興学会論文集』21号にそれぞれ論文を発表した。 ・課題[B]について、前年に収集した資料に加え、広島県立文書館にて1990年代以降の広島市政・県政の「復興」の歴史認識に関わる資料収集を実施し、戦後広島の戦災都市復興と戦争の記憶との関係に関する分析を行なった。1980年代~現代までの「復興」に関する行政側の歴史認識の変化を追い、特に1990年代には「復興経験」を「国際貢献」につなげる、いわば役立つ経験としての復興への注目が見られるようになることを明らかにし、『立命館文学』681号に論文を発表した。。 ・課題[C]について、進展は見られなかった。
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