研究課題/領域番号 |
20K22022
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
仲田 公輔 岡山大学, 社会文化科学学域, 講師 (10872814)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | ビザンツ / アルメニア / 境域 / セルジューク朝 / ヴァスプラカン王国 / 聖遺物 / 聖人崇敬 / 東方キリスト教 |
研究実績の概要 |
今年度は本研究の第二の課題であるセルジューク朝侵入期のアルメニアの社会・文化の変容についての考察を進めた。本来ならば写本奥付や碑文の実見調査を行いたいところであったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、断念せざるを得なかった。しかし、刊行史料の分析等を通して、以下のような成果を得ることができた。 昨年度の研究成果から、セルジューク朝侵入前夜のビザンツの統治に対して、アルメニアの諸勢力は複雑な反応を示していたことが明らかとなった。すなわち、不安定な状況でビザンツを頼りにし続けるものもいる一方で、軍事支援を見込めないビザンツに見切りをつけ、セルジューク朝に対して新たな秩序をもたらす存在として期待を寄せる人々も存在していたのである。このなかでの社会や文化の変容も、政治情勢の影響を強く受けたものであった。興味深い点が、キリスト教文化における「脱ビザンツ化」のような動向が見られたことである。ビザンツ拡大期および統治期においては、帝国側からのキリスト教要素、とくに複雑な教義論争を持ち出さずとも両者の共通点を確認できる聖遺物が、アルメニアとの交渉に際して持ち込まれていた。そうした聖遺物、特に聖十字架は親ビザンツ派に受容される一方で、反発も喚起し、いっそう独自のキリスト教文化を強調するアルメニア側の動向も見られた。ビザンツ支配が後退し始めてからは、ビザンツに由来しないヴァラグの聖十字架など、独自の聖遺物崇敬が再評価されていたことが、史書『アルツルニ家の歴史』などから見ることができた。その一方で、世俗有力者の間でビザンツ由来の称号の使用が続くなど、完全にビザンツ色が払拭されたわけではないこともわかった。11世紀のアルメニアは移行期と位置づけることができ、セルジューク朝侵入が続く中で社会・文化面にどのような変化が起こったのか、特に東方からの影響を加味して経時的な考察を進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大および国際情勢の影響で、予定していた海外での資料調査を中止せざるを得なかったため。
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今後の研究の推進方策 |
研究を延長した2022年度に海外での資料調査を行って、残りの研究、とくにセルジューク朝侵入期のアルメニアにおける人々のアイデンティティと歴史叙述の変容に関する調査を進めたいところであるが、国際情勢の影響もあいまって未だに楽観することはできない。今年度も写本デジタルコピーの取り寄せなども利用しつつ、カバーしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で海外調査が行えなかったため。
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