本研究は、これまでドイツ史や東欧の国民史に分断されてきた第二次世界大戦末期から1970年代半ばにかけてのシレジア地域史を、「未完の戦争」テーゼに基づいて捉え直そうとするものである。 令和3年度においては、以下のような成果・研究実績を挙げることができた。第一に、上記研究がある程度進捗した。新型コロナウイルス感染症およびロシアによるウクライナ侵攻の影響によりヨーロッパでの調査滞在は叶わなかったものの、すでに入手していた史料群の読解や読み直しを進め、それによりとりわけドイツおよびポーランドにおけるシュレージエン地域を介した移住者たちに関する分析に進捗がみられた。これらについては来年度を目途とした論文化を目標としている。 以下は副次的な成果であるが、第二に、論集である岩井淳・竹澤祐丈編『ヨーロッパ複合国家論の可能性――歴史学と思想史の対話』が令和3年5月に出版された。報告者は、この論集の第4章「複合国家の近現代――シュレージエン/シロンスク/スレスコの歴史的経験から」を担当している。第三に、中欧・東欧文化事典編集委員会(編集)『中欧・東欧文化事典』が令和3年9月に出版された。報告者は「シュレージエン、グダンスク――ドイツ領ポーランド」という項目を担当しており、当該項目は広く旧ドイツ東部領土の歴史を概観するものである。第四に、『移民研究年報』(第28号、2022年6月刊行予定)に「オーバーシュレージエン自由国―第一次世界大戦直後のドイツ=中東欧境界地域における独立国家構想―」という論文が掲載されることが決定された。上記第二~第四の実績は、広く近現代もしくは20世紀のシュレージエン地域についての考察を深めるうえで重要な議論を行っているものであり、本研究との関連性は密接であると言える。
|