研究課題/領域番号 |
20K22031
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
吉川 和希 関西大学, 文学部, 助教 (60881464)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | ベトナム東北地域 / 18~19世紀 / 社会変容 |
研究実績の概要 |
近年の学界では西南中国から東南アジア大陸部に及ぶインドシナ半島北部山地が注目を浴びており、特に山地世界の中でも平野部の王朝権力から比較的高い政治的自立性を保持していた地域について、18~19世紀における移民の流入や内陸交易の活発化、王朝権力の介入、及びそれらの諸変動に対応せんとする山地住民の生存戦略が解明されつつある。しかし、平野部の王朝権力に対して比較的従順な態度を示してきたベトナム東北地域に関する歴史学的研究はほぼ皆無であり、在地住民の主体性は考察されてこなかった。以上の問題意識のもと、本研究は未公刊の新史料の分析を通じ、18~19世紀のベトナム東北地域における社会経済構造とその変容、王朝権力の支配の変遷、及びそれに対する在地住民の対応を解明することを目指すものである。 当該年度はコロナ禍により当初予定していたベトナムでの史料収集が実施できなかったため、既収集史料の中でハノイの第一国家公文書館に所蔵される阮朝期(1802~1945)に作成された行政文書群を分析し、19世紀のベトナム東北地域における社会経済構造とその変容、及びそれに対する在地住民の対応を考察した。 阮朝明命年間(1820~1841)の行政改革後も人丁の把握が進んだとはいえず、さらに1850年代初頭から華人武装集団が清朝の領域から到来したことで山地統治が危機的状況に陥り、土司の復活など在地有力者を動員する傾向が強まる。この状況下で諒山省では、(旧)土司たちが「ベトナム王朝に忠誠を尽くしてきた」(それ故王朝権力から見れば利用しやすい)存在として注目された。一方の土司の側も,政治変動・社会変動の時代の中で土司の立場を利用してベトナム王朝との結びつきを強化することで自身の生き残りをはかり、ベトナム王朝との結びつきを自身の権威の源泉とみなすようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍により当初予定していたベトナムでの史料収集が実施できなかったため。
|
今後の研究の推進方策 |
コロナ禍がある程度おさまり海外渡航が可能になれば、当初調査を予定していたハノイの漢喃研究院(ベトナム最大の漢文史料所蔵機関かつ研究機関)および第一国家公文書館(阮朝期(1802~1945)に作成された行政文書群、および19世紀前半に作成された土地台帳である地簿を所蔵)で調査をおこなう。 コロナ禍が続き海外渡航が不可能な場合は、引き続き既収集史料の分析をおこなう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はコロナ禍により、当初予定していたベトナムでの史料調査が実施できなかったことで、旅費や調査協力者への謝金、史料の複写代などに予定していた額が未使用のまま残った。また、国内学会もオンライン開催になったことで、国内旅費に予定していた額も次年度に繰り越しとなった。 次年度においてコロナ禍がある程度おさまり海外渡航が可能になれば、これらの調査をおこなうことで、研究計画を遂行していく。またコロナ禍が続き海外渡航が困難な場合であっても、オンラインで開催される国際学会での発表や学術雑誌への論文投稿は可能であるため、当初の研究計画で予定していた以上にベトナム語や英語での論文執筆を進めることで可能な限り研究計画の遂行を図りたい。
|