18~19世紀に黎鄭政権および阮朝から清朝に派遣された使節(如清使節)が清朝滞在中に本国へ送付して文書を取り上げ、如清使節がなにをどのように本国へ報告していたかを考察して発表をおこない、以下の事柄を明らかにした。(1)阮朝期の如清使節は、往路では広西省城と湖北省城において、復路では帰国前に広西省から行程やおおよその帰国時期などを報告していた。(2)阮朝期に如清使節が本国に報告文書を送付する際は、広西巡撫や湖北総督など清朝側の官僚に草稿のチェックを受けていた。(3)如清使節が帰国する際には、黎鄭政権期には南寧府城、阮朝期には広西省城から、それぞれ報告文書を鄭王府や阮朝朝廷に宛てて発送していた。(4)黎鄭政権期の黎貴惇一行の場合は、南寧府城から発送した啓において文廟調査の報告などをおこなっていた。(5)阮朝期の范世忠の場合は、広西省城から発送した報告文書は行程や北京での公務を記すのみで簡素化していたが、代わりに帰国後に道中で見聞した事項や贈呈された書籍の内容などを報告していた。 また、研究期間を通じてランソン省を含めたベトナム北部山地で収集した行政文書や金石史料、家譜などの史料群を整理すると共に、既発表論文やこれまでの作業を通じて明らかにした知見を整理し、著書として出版するための準備作業をおこなった。またフエ近郊村落文書といった新史料の発見、『阮朝シュ本』といった文書館史料の閲覧の容易化により近十数年で飛躍的に進んだベトナムの行政文書の研究の整理をおこなった。
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