研究課題/領域番号 |
20K22034
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
高木 まどか 国文学研究資料館, 研究部, プロジェクト研究員 (50882833)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 買売春 / 性感染症 |
研究実績の概要 |
本研究は、梅毒および梅毒伝播以前から存在する性感染症、すなわちSTI(Sexually Transmitted Infections)に注視し、それらについて著した医書・日記等を14世紀以降の社会的背景―つまりは京都における軍勢の駐留や貨幣経済の発展等に留意し分析することで、中近世移行期のSTI観および買売春の実相や、買売春観の歴史的変遷等を解明することを目指すものである。この目的に則し、1年目は下記の通り研究を進めた。 【史資料の収集】本研究の基盤を整えるために、主な史資料となる医書および日記等の史資料調査・収集に力をいれた。特にインターネット上で公開されているデジタルアーカイブズや、購入で入手可能な史資料については、可能な限り収集した。 【収集した史資料の分析】あわせて、収集した史資料について、STIに関連する記述を抜き出し、年代毎・医法毎に一覧化する作業を進めた。加えて、近年のSTI研究等を参照しながら、史資料に書かれた症状が現在のSTIの何に相当するか、比定できるものとできないものを区別し、更に「梅毒」と記述されているものでも、梅毒ではない可能性がある症状等について整理・検討を進めた。本研究を進めるにあたって必須の基礎作業であり、現在までに入手した史資料については6割方終了した。この作業は2年目にも引き続き行う予定である。 【学会発表・文章化の準備】中世遊女および梅毒以前のSTIについての先行研究を整理した上で、その不足点・問題点等について文章化するために、先行研究の収集および整理を行なった。また【収集した史資料の分析】で行ったSTIに関する記述の一覧表についても、あわせて研究会等での報告、および学会誌に投稿する準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【史資料の収集状況】1年目は主な史資料となる医書および日記等の史資料調査・収集に力をいれることとし、デジタルアーカイブズや、購入可能な史資料について順調に入手できたことは先に述べたとおりである。しかしコロナ・ウイルスの関係から資料館の業務縮小などが多く、複写を予定していた史資料については、想定以上に入手できなかった。とくに医書については特定の資料館等でしか閲覧できないものや、デジタルアーカイブズで公開されていないものが多くあり、収集に遅れが生じている。 【学会発表・文章化の準備状況】上記の史資料の収集不足に影響を受け、とくに医書の分析について遅れが生じている。現在医書からSTIについての記述を抽出し、整理していることは先述のとおりであるが、閲覧できていない史資料も含めなければ予定していた体系的・通時的な分析を正確に行うことは難しい。そのため、当初の計画よりも、発表および文章化の準備が遅れている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は引き続き調査・収集を行いつつ、収集した史資料から中近世移行期の梅毒および梅毒以外のSTIの広まり等について分析し、当時におけるSTIの位置付けおよび買売春の広まりについて文章化することを計画していた。しかし先述のとおり1年目に予定していた史資料の収集、および文章化の準備について遅れが生じている。また、2年目は遠方への出張を伴う史資料調査に重きを置く予定であったが、コロナ・ウイルスの関係から出張は引き続き難しい状況にある。したがって次年度は、下記のとおり研究を推進することとしたい。 【時代の範囲を広げた史資料の調査・収集】可能な限り遠方の調査および(遠方)複写は行うが、コロナ・ウイルスの状況に左右されるので、今後は主眼としていた中近世移行期以外、とくに江戸中期以降~明治期の史資料についても広く収集し、議論に活かすこととしたい。具体的には東京公文書館など、比較的東京近郊の公文書館・資料館において史資料の収集を進める予定である。 【優先順位を変更しての報告・論考執筆準備】当初の計画では、はじめに中世遊女および梅毒以前のSTIの先行研究について報告・文章化する予定であった。しかし先行研究を検証するための史資料について収集できていないものがあり、この議論については引き続き準備を進めながらも、ひとまずおくこととする。そしてまずは収集・分析できている中近世移行期の医書と日記を対象とし、その記述についての考察を進めたい。具体的には、史資料の記述をもとに、現在のSTIに比定できるものとできないものの区別、各症状のひろまり、罹患者についての記述の変遷等を詳らかにする。また新たに収集する予定の江戸中期以降の医書についても、とくに梅毒の症状の記述について、他のSTIとの関連で考察を行う。これについて、学会等にて報告し、年度内には論文化することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ・ウイルスの影響で予定していた近郊調査および複写ができず、とくに旅費とその他(複写費)を予定通り使用することが難しかった。次年度についてはこの分の助成金を、とくに以下の用途で使用したい。 (1)先の計画書で記したとおり、史資料収集が想定通り進まないのを補うために、主眼としていた時代(中近世移行期)から幅を広げ、江戸中期~明治期の史資料調査・収集もあわせて行う。次年度使用額をこの調査・収集にあて、研究に活用する。 (2)1年目には閉館していた資料館や複写に対応していなかった資料館も、使用できる状況に変化してきている。次年度使用額をあて、これらの資料館に出張あるいは(遠隔)複写を依頼し、資料調査・収集を行う。 (3)新たにデジタルアーカイブズを公開する資料館等が増えており、アーカイブズの保存・管理にあたって想定以上の容量が必要になっている。次年度使用額をあてデータ保存のためのPC周辺機器等をそろえ、研究に活用したい。
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