研究課題/領域番号 |
20K22035
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
木村 理 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, アソシエイトフェロー (10881485)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 円筒埴輪 / 古墳時代中期 / 王権中枢古墳群 / 編年 / 系統 / 生産 |
研究実績の概要 |
採用初年度である2020年度は、古市・百舌鳥古墳群およびその周辺地域を対象に、古墳時代中期における埴輪出土遺跡の網羅的な集成作業と、基礎的なデータの整理を実施した。 その中で、今年度は円筒埴輪の製作技法と規格の検討を通じて、系統ごとの埴輪編年を構築し、分析の基礎となる時間軸の整備を重点的におこなった。とりわけ、古墳時代中期の円筒埴輪を特徴づける外面B種ヨコハケについて、使用工具の変容と製作手法の確立といった観点から再検討し、その時間的推移を生産体制の推移と連動させて理解できる見通しを得た。また、研究史の中でも盛んに取り上げられてきた、古市・百舌鳥古墳群と大和(佐紀古墳群)との相違をめぐる論点にかんしても新出資料を含めて改めて吟味し、窖窯焼成導入以前においては高い共通性をもつ中でも双方の規格差が完全には平準化されていなかったことを明らかにした。こうした地域差は各古墳群が有する生産基盤の相違に基づくものであった可能性が考えられる。 このように、埴輪生産体制とリンクさせた時間軸を再構築する作業を中心としつつ、それと併行して大型前方後円墳と小規模古墳の埴輪生産時における関係性を探るために古市古墳群の資料を対象とした同工品分析、ハケメ同定を実施した。作業はいまだ途中であるが、大規模な生産組織を抱える大型前方後円墳の埴輪生産に対して、小規模古墳の埴輪生産がいかに組み込まれるかを具体的に復元しうる手掛かりを得た。さらに、出土埴輪の効果的な図化・分析が期待される三次元計測の方法論的な整備をおこない、岡山県造山古墳で出土した埴輪の三次元モデルを作成した。 そのほか、古市・百舌鳥古墳群の周辺に位置し、重要なケーススタディの舞台にもなる三島地域の埴輪生産体制を探るために、実態が不明瞭であった大阪府高槻市の弁天山D4号墳(墓谷4号墳)の出土埴輪と須恵器の整理作業を実施し、報告書を編集・刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、古市・百舌鳥古墳群をはじめ、大阪府内の埴輪の資料調査を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から調査を延期・断念せざるをえなかった。したがって、一部の資料を除いて実見できた資料が限られ、大型前方後円墳を中心とした拠点的生産の実相解明については、各種報告書や既存の理解にもとづいて見通しを立てるにとどまった。 以上より、研究の進捗状況としてはやや遅れていると自己評価するが、既往の研究成果とは異なる重要な知見を得ることができていることに加え、成果の一部については報告書として刊行した。また、本研究で分析手法としての確立を目指す三次元計測を用いた埴輪分析についても、複数の資料を用いて試験的にモデル作成、分析をおこなうことができたなど、研究自体には進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗状況も踏まえ、次年度は古市・百舌鳥古墳群をはじめとした王権中枢古墳群の資料の調査を迅速におこなう予定である。 具体的な方針として、当古墳群で出土した円筒埴輪と形象埴輪の製作技法やヘラ記号、使用工具や工人の同定などの分析から、まず各古墳の埴輪生産組織の編成方法を復元する。そして、その上で古墳間分析を行い①大型古墳の埴輪生産に携わった組織全体のうち、どの部分が中・小型古墳の埴輪生産に携わるものであったのか、②中・小型古墳の埴輪生産に携わる工人たちは、大型古墳の生産組織の中で円筒埴輪の製作に携わる者であったのか、形象埴輪の製作に携わる者であったのか、を明らかにしていく。 一方、未報告資料も対象とした上記分析では、効果的な図化計測作業も不可欠である。したがって、今年度に試験的に実施してきた三次元計測を、全面的に分析の中に取り入れ、いまだ資料化されていない資料群に対しても徹底した図化作業を実施する予定である。
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