延長申請による採択3年目には、まず古市古墳群における小規模古墳出土埴輪の悉皆的調査をおこない、ハケメ同定や同工品分析を実施した。その成果の一部は『埴輪論叢』第11号にて公表している。また、こうした王権中枢部の埴輪の分析とあわせて、西宮市・津門稲荷山古墳出土埴輪など、周辺地域の資料に対しても分析を実施した。 採択期間中の分析を通じて、以下の2点について成果を得ることができた。1点目は5世紀における埴輪編年の再検討である。本研究では生産体制分析の成果を取り入れて、系統差やサイズ差なども考慮した編年案の整備をおこなった。その中で、近年の調査で出土した資料も含めて悉皆的な調査を実施し、データに基づく編年案を提示した。また、5世紀前半においては、大和盆地と河内平野の間で様相差が見て取れること、5世紀後半以降に大型品と小型品の間での様相差が顕在化することの2点を強調した。 他方、2点目として、古市古墳群をはじめ王権中枢古墳群の中小規模古墳を対象に、ハケメ同定や同工品分析を実施し、工人集団の編成方法を復元した。その結果、器種別分業の具体像やその変遷、あるいは大型前方後円墳を中心とした拠点的生産の中での中小規模古墳の組み込まれ方などについて、多くの所見を得た。さらに、周辺地域についても三島地域や西摂地域、大和盆地南部を対象とした分析をおこない、王権中枢古墳群における集団編成方法との相違について比較検討した。それにあたっては、未報告資料をも検討の対象とし、SfM/MVS手法を用いて効果的な図化計測もおこなっている。 このように、5世紀における大型古墳と中・小型古墳の古墳造営時における労働力編成の一端を復元し、そこから古墳時代における同一古墳群内での階層構造や、中心周辺関係の中での質的格差などについて考究した。
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