研究課題/領域番号 |
20K22036
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
陳 宣聿 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (40880315)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | いのち / 胎児観 / 台湾 / 中絶 |
研究実績の概要 |
2020年度において、本研究の主な実績は現代社会における胎児の生命観に関する議論の深化、及び調査資料の整理の2点である。具体的な研究実績は以下のように述べていく。 1、現代社会における胎児生命観の構築:報告者は胎児の生命観の変遷に関する異なる分野にまたぐ先行研究の議論を整理し、これまで研究してきた夭逝した胎児を弔う儀礼との関係性を模索しながら、対話のプラットフォームを構築しようと試みた。現代における胎児の生命観変遷を考える際に、一つ規範的な基準だけで捉えきれない側面があるため、報告者は胎児の生命観をめぐる議論の複雑性を検討し、細分化する必要性を感じでいた。宗教、儀礼の位置付けを考えながら、より緻密な議論により異なる時代、文化背景による国際比較研究の可能性を開くことができた。 上記する主な成果はオンラインの学会参加を通して発信し、その成果は2020年10月16日で行った台湾宗教学会、東アジア恠異学会第128回定例研究会での口頭発表、2021年3月刊行した『宗教研究別冊』の学会紀要を通して公表されていた。 2、尊重生命大聯盟に関する調査資料の整理:報告者は今まで収集してきた台湾の尊重生命大聯盟、優生保健法に関する調査資料を整理していた。特に2005年輔仁大学で行われていた「途切れた命のために祈る」大会に関するビデオ映像の分析を行っていた。この儀礼において、複数の仏教、カトリック、プロテスタント、道教、そして新宗教団体が出席して、多宗教・宗派の特徴を反映していた。今後はさらに調査を深め、儀礼の位置付けを検討していきたい。 上記する2点の成果は、今後本研究の展開の基礎を構築する役割を持っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の達成度を判断した理由は、以下のように述べている。 まず、新型感染症の広がりによって、予定した実地調査が困難となったため、本年度の課題は資料の整理、およびオンラインでの情報収集に方向転換していた。これは報告者最初に立てた計画と異なるものの、文献資料の整理によって問題点を深めることができた。また、新型感染症が広がる状況に適応し、儀礼配信をオンライン形式に展開する宗教団体もあり、映像を通して儀礼の流れを把握することができた。そして、オンラインでの情報収集を通して、今まで見落とした新たな課題が浮上し、本研究の発展の方向がより立体的にみえてきた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究成果を踏まえ、日本と台湾での「プロライフ運動」を行う団体の実態像を把握することが2021年度において重要な方針となる。その目標を達成するために、報告者は具体的以下二点の方策を立てていきたいと考える。これからの研究は日本と台湾での「プロライフ運動」を担う組織団体の基礎情報、そして内部の関係性を明確化していきたいと励む予定である。 ①台湾のプロライフ運動団体に対するオンラインイン調査を展開する:台湾において、1985年優生保健法の実施は「中絶の合法化」とみなされる一つしるしとなる出来事である。2000年代あたりから、胎児の生命尊重を理由に優生保健法の修訂を求める宗教団体が浮上し、その代表格は「尊重生命大聯盟」である。報告者は「尊重生命大聯盟」を軸にして台湾におけるプロライフ運動団体の関係性を調査し、オンラインのインタビューを通して、基礎情報を把握する予定である。 ②1980年代以降の日本におけるプロライフ運動の様相の概観:日本において、1970年代から1980年代にかけて(旧)優生保護法の改訂運動をめぐって、胎児の生命尊重を唱える運動が盛んに行い、特に生長の家を筆頭とする複数の宗教団体の連合が、重要な役割を演じていた。今後はさらにその内部の多様性を追求し、日本におけるプロライフ運動の展開を追究予定である。また、2017年日本の石川県加賀市に展開された「生命尊重の日」を軸に、1980年代以降日本における胎児の生命尊重に関係する動きに関する情報収集も展開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
以下の2点に基づき、次年度使用額が生じた理由を述べていく 1、学会参加の旅費支出の減少について:新型感染症の拡大に伴って、学会の開催形式にも影響をもたらし、学会開催の中止、延期、もうしくはオンライン形式に変更することがやむを得なかった。そのため、最初学会参加に使用する旅費の支出が減少していた。2、実地調査の旅費支出の減少について:新型感染症の拡大に伴って、儀礼の中止、県をまたぐ移動が制限される中、実地調査の展開が困難となった。その代わりに、オンライン形式によっての情報収集が進み、関連する旅費の支出が大幅に減少していた。 今年度で得た経験及び制限を踏まえ、如何に新型感染症の拡大によって生じた新生活様式に適応し、自身の研究計画を調整することが重要なポイントである。そのため、次年度の使用計画は以下の2つの要点にまとめることができる。 1、通信機器の整備:対面での接触が厳しい状況になり、通信機器を整備し、オンライン形式の学会発表、及びインタビュー調査への展開に向けて使用する予定である。2、実地調査:オンライン形式を通して基礎となる情報を把握した上で、必要に応じて検温、検査、マスク着用に注意を払った上で、実地調査の再開も視野に入れる。調査の関連費用として次年度に使用する予定である。
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