研究課題/領域番号 |
20K22036
|
研究機関 | 大谷大学 |
研究代表者 |
陳 宣聿 大谷大学, 真宗総合研究所, 研究員 (40880315)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
|
キーワード | プロライフ / 胎児 / 台湾 / カトリック / 中絶 |
研究実績の概要 |
昨年度の課題に引き続き、2022年度において実地調査を再開し、主要な研究実績は以下の2点となる。 1.台湾におけるキリスト教系プロライフ団体の動きを把握:報告者は台湾におけるキリスト教的背景を持つプロライフ団体(内訳:カトリック系1つ、プロテスタント系1つ、多宗教1つ)に対してインタビュー調査及び参与観察(デモ活動、儀礼)を行った。一口にキリスト教といっても、カトリックとプロテスタントはそれぞれ異なる組織を立ち上げる傾向が見える。台湾におけるカトリック教会は、1970年代から1980年代、そして2000年代以降でも、胎児の生命尊重を理由に中絶の反対運動を行い、歴史的な側面を把握するには1つの重要な手がかりとなる。また、プロテスタントのプロライフ団体は危機的妊娠へのサポート及び純潔教育に力を注ぐ特徴があり、組織の構成は教派の垣根を越える傾向がみえる。 2.日本におけるプロライフ団体の動き:報告者はまた日本におけるプロライフ団体が行った集会に参加し、主要な担い手、運動の手法、組織の対外関係などについて情報収集を行なった。今年度は特に経口妊娠中絶薬の認可の反対に力を注ぎ、署名活動、講演会など、具体的な活動を展開していたことが分かった。また、2021年度マーチフォーライフ活動の調査を継続し、主催者側のみならず、協力団体についてのインタビュー調査を行なった。 上記する研究実績の一部は、国際学会での研究発表、予稿論文の形式で報告されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の達成度を判断した理由は、以下の通りである。 1.台湾における実地調査の再開によって新たな課題を発見:今までオンラインで実施してきた調査を継続しながら、調査開始当初、新型コロナウィルス感染症によって縮小、中止された儀礼、デモ活動も徐々に再開するようになった。それによって、台湾での調査が大きく進展した。実地調査で得た成果のほかに、『中国天主教文化協進会会訊』、『教友生活週刊』、『天主教周報』といったカトリック信者向けの刊行物を収集することができ、カトリック教会内部の立場の違いについて把握することができた。他方、この調査を通して、新たな課題も生じ、現在調査した団体の他に、別のプロライフ団体への調査も視野に入れる必要性も感じた。 2.整理の作業がやや遅れる:調査が進展するものの、新たな発見によって、研究計画当初の枠組みを調整する必要が生じ、それに伴って論文の執筆、整理作業がやや遅れている。他方、丹念に1つの論考に向き合ったため、予稿論文の内容が評価され、第6回アジア未来会議で優秀論文賞を受賞した。 以上の達成点と不足点を総合的に考え、おおむね進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
研究が始まる際に、報告者は日本と台湾における多宗教、宗派、教派が複合しているプロライフ団体の特徴に焦点を当てたが、研究が進むにつれて、国際的に展開するキリスト教のネットワークにも注意を払う必要があると感じた。こういった2022年度の研究成果を踏まえ、以下の2点「1.補足調査の実施」及び「2.カトリック教団の動向に関する継続的な検討」が必要となる。 1.補足調査の実施:報告者は今までの研究を通して、台湾と日本において、現在活躍しているプロライフ団体の基礎を把握していた。他方、それらの団体の前身となる団体、もしくは枝分かれた団体に対する認識がまだ不十分である。それを踏まえて、これらの団体に対して新たな補足調査を実施する予定である。 2.カトリック教団の動向に関する継続的な検討:報告者は2022年9月17日、台湾のカトリック教会が台北、新竹、嘉義、高雄、花蓮及び金馬の六つの教区で同時に開催した第2回のMarch for life(中国語:為生命而走)というデモ行進活動について参与観察を実施した。2019年のMarch for lifeは新竹教区のイベントであったが、教区を超えた全国単位の組織の成立によって、全国的なイベントになった。今後重要性がさらに増すことが考えられるため、継続的な観察が必要である。
上記の研究成果を生かし、今後も論文の執筆や学会発表を尽力し、研究成果を還元する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は以下の2点がある 1.国際学会で使用予定額の減少:報告者は2022年8月27日から8月29日台湾で開催した第6回アジア未来会議に参加した。優秀論文賞の受賞によって国際会議の参加費が免除された。そして新型コロナウィルス感染症の影響で大会がオンラインと対面が併用するハイブリットの形式で開催され、研究調査日程との調整で報告者がオンライン形式の参加を選択したので、旅費に関しても節約することができた。 2.AIのソフトウェアの利用:2021年度、報告者はインタビュー調査の文字起こし作業を研究協力者に依頼していたが、2022年度から、文字起こしの作業を多言語に対応できるAIのソフトウェアに利用することを試みた。資料整理の作業時間が予定より長くなったが、経費面で大幅に節約することができた。 次年度の使用計画:補足調査の実施及び研究成果の発信、関係資料の収集に使用する予定である。
|