本研究は現代アフリカの都市にあふれる「奇跡」や「超常的経験」についての言説を経験の次元から探究するものである。これまでの研究では人々が語る「超常的経験」はその経験の真偽は問われることなく、政治や経済などを表象するものとして縮減され論じられてきた。その結果、起点のなる人々の経験とそれが説得力を持ち現実を生成していくメカニズムについては十分に明らかにされてこなかった。本研究は「超常的経験」の環境的・状況的な条件、言語的表出のされ方や都市における身体的な経験、メディア状況を捉えることによって、「超常的経験」が現実に組み入れられ現実を再構成するあり方を目的としていた。 COVID-19による現地調査中断が続き、当初は遅れていた研究課題であるが、2021年度後半より渡航が可能となり、ベナン及びトーゴで精霊マミワタの祭司や結社の人々、及びペンテコステ・カリスマ系教会の信者に、感覚や経験を中心とした聞き取り調査を行い、また参与観察を実施することができた。また、研究成果としては日本アフリカ学会や日本文化人類学会の発表に加え、シンポジウムが国際セミナーなどでも口頭発表してきた。論文は当該研究の実施年度内に、情動と想像力、身体的記憶をテーマとして『文化人類学』の特集を編集し、憑依について議論するとともに、関連するテーマで日本語論文4本、英語論文3本を公刊した。また最終年度にはベナンのペンテコステ・カリスマ系教会の「超常的経験」をめぐった単著1冊と、成果の映像人類学的方法を探究する編著1冊を刊行した。
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