研究課題/領域番号 |
20K22041
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
柏木 亨介 國學院大學, 神道文化学部, 助教 (10751349)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 国家神道 / 神職会 / 感染症 / 社会事業 / ハンセン病 |
研究実績の概要 |
2020年度は、国立療養所大島青松園(高松市)と国立療養所菊池恵楓園(熊本県菊池市)において、地元神職団体による療養所への慰問活動に関する資料の収集を行なった。また、阿蘇神社(阿蘇市、熊本県神社庁阿蘇支部)において神社界(官社)と社会事業、公共事業との関係性について調査を行なった。 国立療養所大島青松園(高松市)では、同園自治会が保管する日誌のうち戦前から戦後にかけての21年分を閲覧、写真撮影を行った。その結果、香川県神職会による同園の慰問活動は、戦前は同神職会会長、副会長、地元支部の神職が訪問して病気平癒祈願祭を執り行っていたが、戦後は慰霊祭という名で地元支部の神職のみが訪問するかたちになっており、戦前と戦後とでは慰問活動の質的変化がみられることがわかった。また、日誌には様々な宗教団体の慰問活動が記されていることから、各宗教団体の活動内容やその比較といった研究にも寄与しうる資料であることが判明した。 国立療養所菊池恵楓園(熊本県菊池市)では、同園が保管する恵楓神社創建に関わる公文書と、同園自治会が所蔵する日誌の閲覧、写真撮影を行なった。その結果、皇太后下賜金の使途に関する通達文、社殿建築の入札書類、御神体授受の領収書などの存在から、同園の神社創建は療養所と管轄県が主体となって進められていたことが判明した。 阿蘇神社での調査では、コロナ禍での祭礼の対応と、熊本地震災害復興における神社界の取り組みについて担当者と会談し、神社と行政との連携の仕方について説明を受けた。 以上の調査で得られた資料の分析結果をもとに、今後収集すべき資料と調査対象先を絞ることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言発出の影響を受けて調査開始が当初の計画より数ヶ月ほど延びたものの、おもな調査対象機関である国立療養所大島青松園(高松市)と国立療養所菊池恵楓園(熊本県合志市)の園長および入所者自治会から本研究に対する理解が得られ、計画通りの日数で調査を実施することができた。これは、申請者が数年前から同所を訪問していたために関係者とのラポールが築けていたことによるものである。 こうした実績から2021年度も調査対象機関から調査実施許可が得られると考えており、当初の予定通り研究を進めることができる見込みである。 両機関の所蔵資料を閲覧、撮影し、大島青松園に関しては県神職会が病気平癒祈願祭を毎年催行していたこと、菊池恵楓園に関しては設計図や入札記録から神社建立の詳細が判明したことから、次年度の調査対象機関の資料照会が円滑にできるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、ハンセン病療養所に対して積極的な社会事業活動を展開したとみられる香川県神職会、岡山県神職会、京都求らいの会、および熊本県の活動実態を調査する。調査計画としては大きく分けて、(1)府県および神職団体が保管する感染症対策資料の収集、(2)国立療養所の神社および祭祀の実態、の2点の調査から成る。 (1)は、各種公的機関(府県庁、府県立図書館)および府県神社庁を訪問し、各々が保管する文献・記録類の複写および撮影、(2)は国立ハンセン病療養所(邑久光明園(岡山県瀬戸内市)、大島青松園(香川県高松市)、菊池恵楓園(熊本県合志市))の神社社殿と跡地の現状調査(撮影および関係者への聞き書き)および現行の祭祀の調査を行う。 2021年度も新型コロナウイルス感染対策で入館・入園規制中のため、先方と協議のうえで日程を決めていく必要があるが、年内での調査を計画している。 以上の収集資料を分析し、戦前の神職団体の社会事業の活動内容の概要をまとめる。それに加えて、療養所において神社祭祀の観察および聞き書きを行い、往時の状況に関する伝承を記録する。神職会資料と療養所の伝承を関連させながら、国家神道による社会事業の実態を学会発表および論文投稿というかたちで公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は県立図書館等で文献複写を予定していたが、新型コロナウイルス感染症対策のため図書館等への出張日程の都合がつかなかったことに加え、調査を実施した機関においても資料の写真撮影の許可が下りたことから、旅費の一部と文献複写費を使用する機会が限定的となり、その分の金額が次年度使用額として生じた。また、複写作業と資料整理作業に従事する人件費も発生しなかったことから、この分の金額も次年度使用額として生じた。 2021年度は、当初の計画通り県立図書館等の調査対象機関において文献調査を行い、それにかかる文献複写費を使用する。
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