研究課題/領域番号 |
20K22043
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
竹内 愛 南山大学, 人類学研究所, 研究員 (00804387)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | ネパール大地震 / 新型コロナウイルス・パンデミック / 女性自助組織 / グローバル化 / 相互扶助 |
研究実績の概要 |
本年度の研究は、昨年度に引き続き、新型コロナウイルス・パンデミックのために海外渡航が困難であったため、本研究調査を少し広い視点から行うことにした。具体的には、次の2つの側面から調査は進められた。 第一に、ネパールの古都パタンに2000年代以降次々と設立されているネワール民族の女性自助組織が、2015年ネパール大地震、新型コロナウイルスのパンデミック後のコミュニティ復興活動にどのように関わっているのか、ネパールの女性自助組織のメンバーからのオンライン調査を行った。農民カーストの女性自助組織ミサ・プツァでは、ネパール大地震からのコミュニティ復興プロジェクトとして「観光を目指した街づくり」を行っているものがみられたが、新型コロナウイルス・パンデミックによって、外国人観光客が減少し、そのプロジェクトは一時中断している。それに代わって、現在は、ミサ・プツァは、コミュニティの住民のために、フードバンクを立ち上げている。食物や日用品を提供できる住民は、フードバンクに食料等を置き、貧困に陥った住民は、フードバンクから、必要なものを持ち帰ることができるシステムづくりをしている。女性自助組織の活動によって、コミュニティの災害レジリエンス強化が達成されていることが解明された。 第二に、災害時に、海外ネットワークによってどのように現地が支援を受けているのか明らかにするために、日本国内のネパール人コミュニティでのインタビューを行い、その実態について調査した。日本に出稼ぎ労働者として来ているネパール人は、地震や新型コロナウイルスパンデミック発生後、ネパールの家族やコミュニティに復興支援として日本から送金をしたり、物資を送付しており、現地の早期復興のためにはなくてはならない存在となっている。グローバル化の中での復興支援のあり方が解明された。研究成果として、学会発表を1回行い、論文1本を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗状況としては、当初、計画していたネパールでの文化人類学的フィールドワークを行うことができず、国内でのネパール人コミュニティにおけるフィールドワークを中心に進めることになったため、やや遅れていると考えている。今年度は、冬と春に、調査地パタン市に赴き、ネワール民族の女性自助組織ミサ・プツァの活動についてのフィールドワークを行う計画を立てていた。しかし、本年度も昨年度に引き続き海外渡航が困難となり、当初予定していた現地調査を実施することができなかった。したがって今年度も、リモート調査を行った。具体的には、現地研究者、パタンの行政職員および女性自助組織のメンバーが日々SNSに投稿する記事をチェック、メールやSkypeでオンラインで聞き取り調査をし、その内容の検討を行った。リモート調査から、パンデミック下でも、女性自助組織のメンバーたちは、コミュニティのニーズに応えるように、積極的にリーダーシップを発揮して活動していた。例えば、コミュニティの住民たちがマスクが不足しているという状況に対しては、マスク製作をして、無料で住民に配布したり、貧困者に対してはフードバンクを設立し、日用品と食材などを提供するなど支援活動をしていた。女性たちの努力によって、コミュニティの災害レジリエンスが強化されていることが明らかとなった。また、日本国内でのフィールドワークによって、グローバル下でのコミュニティ相互扶助についても明らかとなった。具体的には、日本に住むネパール人労働者たちは、現地家族に対して、日常的な送金をしているだけでなく、災害時には、家族だけでなく、出身地のコミュニテイのためにも支援物資の送付や送金をし、支援を行っている。ネパールの小さなコミュニティであっても、海外に出稼ぎ労働者を出して、海外とのネットワークを持つことで、コミュニティのより早い復興に繋がっていることが解明された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、ネパールの旧王都パタンにおいて、女性自助組織ミサ・プツァが、2015年大地震の復興過程において新型コロナウイルスのパンデミックが発生するという複合的災害状況に、どのように対応し、コミュニティの災害レジリエンス強化を行っているのかを分析し新たな災害ジェンダー論を構想することである。 ネパールへの渡航が可能となったことから、2022年5月に約2週間ネパールの旧王都パタンを実際に訪れ、女性自助組織の活動を参与観察し、また、女性自助組織のメンバーたちからパンデミック下でどのような活動を実施して来たのか、また、海外出稼ぎ労働者たちからどのような支援を受けてきたのかについて、インタビューを行い、グローバル社会における相互扶助のあり方について解明する予定である。また、冬にも現地調査を行う計画をしているが、パンデミックの状況に応じて、調査時期や期間を変更する。 2022年度は現地調査に加えて、昨年度から調査を始めた在日ネパール人コミュニティと現地との支援ネットワークも含めてより広い視野を持って研究調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も新型コロナウイルス・パンデミックが継続しており、海外渡航が難しい状況であったため、当初の研究目的を達成することは困難であったため、渡航費、現地謝金を次年度に繰り越すこととなった。 2022年度は、5月に約2週間のネパールでのフィールドワークを行い、冬休みにも1回ネパールでのフィールドワークを約2週間計画している。2020、2021年度に新型コロナウイルス・パンデミックのためにフィールドワークすることができず使用できなかった繰越金については、2022年度に実施する予定である2回の現地調査の渡航費と調査協力者への謝金、調査に必要なビデオカメラを購入する等に使用する。また、文献研究のために、海外、国内での文献資料の購入にも使用する。
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