本年度は、ネパールにおいて新型コロナウイルスに係る入国制限措置が緩和されたため、実際に現地を訪れて文化人類学的調査を2回実施した。カトマンズ盆地に位置するパタンにおいて、2015年ネパール大地震と新型コロナウイルス・パンデミックという複合的災害下、ネワール民族の女性自助組織がどのような対応・復興活動をしているのか、また、ネパール国内の組織ネットワークのコミュニティ支援状況に焦点を当てて調査を実施した。 具体的な調査目的は次の3点であった。①複合的災害下、地域内部で女性自助組織が行う活動を明らかにする。②行政が複合的災害下に復興にどのように関わっているのか解明する。③ネワール農民相互扶助組織であるジャプ・サマージ等の組織ネットワークが地域にどのように働き、女性自助組織はどのような役割を担っているのか、明らかにする。 目的①と関連して、女性自助組織は、ロックダウン令の下、住民のために、マスクを製作し、消毒液等を住民に配布したり、町中にスピーカーで感染防止のための新しい生活様式の放送を行い、注意喚起を行った。また、経済的に困窮した人に対して、食品配布を行った。ロックダウン令が解かれてからは、地域復興のために、女性自助組織のメンバーで石鹸作りトレーニングを受講し、復興のために地域の営利活動を始めている。目的②と関連して、行政から女性自助組織に対しては新型コロナウイルスに関する知識と新しい生活様式、ワクチン接種についての情報共有をしたり、マスク製作トレーニングが行われた。目的③と関連して、ジャプ・サマージでは、住民たちに対して新型コロナウイルス感染者の入院手続き、感染による死者の火葬手続き等を行った。女性自助組織は、ジャプ・サマージの活動の情報を住民たちに広める役割を果たした。 以上の調査結果をジェンダー・災害・開発理論と照らし合わせて、考察を行い、研究発表と著書の執筆を行った。
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