本研究では、フィジーとバヌアツを対象とし、技術訓練学校を事例とし、伝統的住居の建設をめぐる在来知の性質と教育機関の特性から、新たな継承の場としての可能性を検証することを目的する。 本年度は、2023年8月-9月にフィジー、バヌアツにて現地調査を実施した。しかし、バヌアツでは2023年3月にカテゴリー4およびカテゴリー5の2つのサイクロンに見舞われ、当初予定していた調査は実施できなかった。以下、フィジーに関して報告する。 伝統的住居(ブレ)が集落として残るビチレブ島内陸部のナバラ村では、2016年サイクロン・ウィンストンやコロナの影響でブレの再建や屋根の葺き替え作業が中断されていたが、2022年、2023年と各年10以上のブレの屋根の葺き替えが行われた。特に継承の観点から、どのような体制で実施されているのかを確認した。ナバラ村以外でも、チーフの住居やコミュニティホールとしてブレを建設している事例を確認した。これらも村の総意によって建設され、自然素材を屋根材として使用する特性から、5年から10年に一度の割合で葺き替え作業を要し、村内で知識や技術を共有する機会が創出されていた。ただし、ナバラ村と比較すると後者は作業機会が少なく、一定の作業に伴うスキルの習得や向上に十分であるかは今後調査が必要である。 いずれの場合も、現在もブレは村内で入手可能な自然資源を利用して継続的に建設・修繕され、それらを通じて知識や技術を共有されることにより維持・継承されている。形態や技術に類似性や共通性があるものの、個々の村の文脈に依存し成立しているためブレは地域固有性が高い。標準化やマニュアル化が難しいことが確認された一方で、技術訓練学校ではサステナブル建築に関心が高く、ブレが有する地域資源の利用、環境に適した性質などの観点からの大工訓練プログラムへの導入の可能性が示唆された。
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