研究課題/領域番号 |
20K22047
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
宮田 賢人 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (40881420)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 法現象学 / 法的確信 / 法哲学 / 法理学 / 現象学 / 法社会学 / 法動態論 |
研究実績の概要 |
本研究の今年度の成果は大きく次の2点にまとめられる。第一は、英米の法哲学における「法的確信」をめぐる議論のサーベイを通じて、そこでの議論と法的確信の意識構造をフッサールの現象学に依拠して分析するという本研究のアプローチとが、「予期 expectation, Erwartung 」という概念を結節点として接続する見込みを獲得できたという点である。この想定にしたがえば、「法的確信」というのは、社会的慣習の反復のなかで形成された秩序それ自体およびそれがもたらす利益に対する(ある共同体のメンバーのあいだで)間主観的に共有された予期として理解できる。このように理解することで、たんなる社会慣習と慣習法とを区別する本質的なメルクマールやその発生の過程を、現象学にもとづいて、より詳しく分析することが可能となる。それによって、法多元主義をめぐる最近の議論において問題となっている、法多元主義における法の定義問題にも解決策を提示することが可能になると思われる。 第二は、Sophie Loidolt, Einfuehrung in die Rechtsphaenomenologieの翻訳プロジェクトに参加できたことである。本書は、法現象学の包括的な概説書として、20世紀以降の法現象学の動向をほぼ網羅的に整理するものである。これまで法現象学は体系的に研究されてきたとは言えず、その全体像は曖昧なものであった。本書はそこに明確な輪郭を与えることで、法現象学の議論の流れや論点を可視化した重要な著作である。翻訳成果が公刊され学界で共有されれば、法現象学の多産的なポテンシャルを各方面で展開していくきっかけとなると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、今年度中に、アドルフ・ライナッハ、エディット・シュタイン、ヴィルヘルム・シャッペらフッサールの影響下にある現象学者が展開した法現象学、そして、フリッツ・シュライアーおよびフェリックス・カウフマンら、いわゆる純粋法学派に属する法学者が展開した法現象学を検討し、そのなかから法的確信論と関連する議論を発見・整理するつもりであった。しかし、主に次の2つの理由から、その作業ができなかった。第一に、新型コロナウィルスの感染拡大によって、当初の想定よりも研究時間が確保できなかったため。第二に、「研究実績の概要」でも述べたように期せずして翻訳プロジェクトに参加する機会に恵まれ、そちらの方の作業を優先させたため。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は主に次の2つの課題に取り組む予定である。第一に、「研究実績の概要」で述べた第一の成果を論文としてまとめ、それをブラッシュアップするために研究会報告・学会報告を行うこと。現時点では、法的確信をめぐる法哲学の諸研究を法多元主義の議論のなかに位置付けたうえで、法的確信の構造の解明の必要性を説く論文と、法的確信を間主観的に共有された予期と捉えたうえで、現象学的なアプローチによってその分析を試みる論文、以上の二つの論文を執筆予定である。第二に、「現在までの進捗状況」に記載してある、今年度実施予定であった作業を実施し、既存の法現象学の諸研究と上述した第一の成果との関連を明確化する作業を行う。この作業では、法の妥当根拠における、事実と規範、存在と当為という二元的な対立をいかにして従来の法現象学が克服しようと試みたか、そしてそのような試みが法的確信の議論へどのような示唆を与えうるか、ということを明らかにしたい。 また、当初の予定では、来年度は、海外に渡航して、主にドイツで情報収集活動・ネットワーキング活動をしたいと考えていたが、今年度の後半でも海外渡航が難しい場合は研究期間の延長も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な文献を購入した結果、半端分が出たため。
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