研究課題/領域番号 |
20K22047
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
宮田 賢人 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (40881420)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 法現象学 / 法的確信 / opinio juris / 慣習法論 / エトムント・フッサール / 尾高朝雄 / 現象学 / 法哲学・法理学 |
研究実績の概要 |
本年度は、単なる慣行から慣習法を区別する一要件としての法的確信(opinio juris)がどのような構造を備えた意識状態であり、またどのような過程で生成するのかを研究した。本研究では、慣習国際法研究において典型的であるような、慣習法認定に携わる裁判官の視点からではなく、いままさに慣習法を遵守する者の一人称的な経験に定位して法的確信の構造と生成過程の解明を試みた。すなわち、現象学的なアプローチを用いて、どのように自らの行為を法として認めるような確信が生ずるのかを研究した。より具体的には、法哲学者であり日本における法現象学の先駆けでもある尾高朝雄の慣習法論およびエトムント・フッサールの現象学(とりわけ動機づけの議論や内的時間意識論、予期の現象学)を精査した上で、法的確信は、①その保有者を規範遵守へと動機づけるような確信であること、そしてそれは、②規範それ自体が保障しようとする事態の価値(規範価値)およびその規範遵守の一般慣行化がもたらす人々の予期の安定化に由来する秩序の利益(秩序価値)という二つの種類の価値志向に基礎づけられた価値的・規範的確信であることを明らかにした。 以上の成果は、現象学的なアプローチで社会事象を分析することに関心を持つ研究者が多く所属する日本現象学・社会科学会(2021年12月)および主に関西の法哲学者・法理学者が参加する法理学研究会(2022年3月)で報告し、フィードバックを受けた上で、論文としてまとめ、現在、某ジャーナルで査読プロセスにかかっている。 また本年度は、昨年度に引き続きSophie Loidolt, Einfuehrung in die Rechtsphaenomenologieの翻訳プロジェクト に参加しつつ、既存の法現象学の研究蓄積をサーベイし、次年度へ向けた論点の明確化を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
法的確信に現象学的にアプローチするという試みはこれまで例を見ないものであったが、尾高朝雄の慣習法論に同様の発想を見つけることができたため、比較的スムーズに研究を進めることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はもっぱら慣習法を遵守する者の観点から法的確信という概念にアプローチしたので、次年度は、慣習法認定に携わる裁判官の法経験に定位して法的確信へアプローチする。本年度と同様、現象学を方法論に、裁判官(を筆頭とする法律家たち)がどのように慣習法を経験しているかを解明したい。この解明にあたってガイドラインとしたいのが、ハンス・ケルゼンの純粋法学をエトムント・フッサールの研究成果によって現象学的に基礎づけようと試みた純粋学派の法現象学者、すなわち、Felix KaufmannおよびFritz Schreierの一連の業績である。彼らは、法を法命題として経験する法律家の意識作用を現象的に分析することで、法命題の本質構造を探求した。彼らの研究成果は裁判官(を筆頭とする法律家たち)がどのように慣習法を経験しているかを解明するにあたって有用であるという想定のもと、次年度は研究を進める。 また、以上の研究の射程をより広く捉えれば、それは法を経験する「視点」の多様性(法を遵守する市民の法経験、法を解釈し適用し紛争を解決する裁判官の法経験、そうした法実務を分析し理論化する法学者の法経験etc.)とその間の差異の研究となる。そしてそれは、H.L.A. ハートおよびジョセフ・ラズ やニール・マコーミックらによって提起された、「内的視点」と「外的視点」そして「距離を置いた視点 detached viewpoint」の差異をめぐる議論とも関連してくるだろう。次年度は、本研究の現象学的分析と以上の分析法理学における論点との接続可能性も検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、新型コロナウィルスへの対応に追われ、研究が進捗しなかったために、1年間補助事業を延長したため。残額は、文献調査費および国内外学会報告の旅費に充当する。
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