本研究は、「人道に対する犯罪の国内法化および適用上の諸問題に関する研究」という表題のもと、現在国連を中心に条約化の動きがみられる「人道に対する犯罪」について、その処罰に関する日本の法整備のあり方を明らかにすることを目的とするものである。国連の「人道に対する犯罪」条文草案には、加盟国に同犯罪の国内法化(犯罪化)を義務づける規定が含まれているが、日本の刑法には、人道に対する犯罪の処罰規定が存在しないため、新たに法整備を行う必要がある。そこで、本研究では、来るべき立法作業に備えて、ドイツ語圏諸国の立法例および適用事例を参照しながら、人道に対する犯罪の国内法化をめぐる諸論点の提示・ 解決、および、同犯罪の適用上の諸論点の提示・解決を試みる。 令和2年度に実施した研究によって、人道に対する犯罪の1類型である「迫害」に関する検討を行う必要性が明らかとなったことから、同類型に関するドイツ語圏諸国(ドイツ・スイス・オーストリア)の立法例および適用例の調査・検討を重点的に実施する計画であった。しかし、同条文草案をめぐる論点の1つである事項的免除に関して、令和3年1月28日にドイツ連邦通常裁判所(BGH)が下した判決の検討が重要課題として浮上したため、令和3年度は、同判決に関する調査・検討を優先的に行い、その成果を論文として公表した(フィリップ・オステン=久保田隆「国際刑罰権の間接実施と事項的免除──国家による中核犯罪の訴追と裁判権の免除をめぐる問題の一段面──」法学研究94号12号(2021年)1頁以下)。令和4年度は、同年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻という重大な事象の発生を受け、これに関する調査・検討を優先的に行い、その成果を公表した(久保田隆「ウクライナにおける『戦争犯罪』と国際刑事法」国際法学会エキスパートコメントNo. 2022-11(2022年)1-6頁ほか)。
|