本研究の目的は、縮小化社会において最低生活保障と租税負担配分をどのように調整していくべきかという問題に対処するために、ドイツの判例・学説を素材として、生存権の「自由権的側面」が持つ意義を解明したうえで、その合憲性審査の在り方を解明することにある。目的達成のため、以下の研究計画を遂行した。 2020年度は、ドイツ法との比較法研究を行うための前提として、ドイツにおける議論の状況に焦点を当てた研究を行った。具体的には、ドイツ連邦憲法裁判所の近年の税法・社会法判例を素材として、それらと従来の判例との異同を明らかにしたうえで、Laurence O'haraの所論を手掛かりとして、立法手続に着目した統制手法の導入可能性を探究した。 2021年度は、日本全国の地方裁判所において現在次々と判決が下されている、生活保護引き下げ訴訟に着目して、日本の裁判実務における生存権保障のあり方を明らかにした。 2022年度は、これまでの研究成果を踏まえたうえで、最低生活にかかる事案の類型化を行った。そこでは、これまで類型化の際に着目されてこなかった生存権の自由権的側面について、その視点を加える必要性を多数の具体的な判例検討をもとに明らかにしたうえで、自由権的側面を取り入れた類型化モデルを提示し、さらにそこから、その類型化に対応した審査枠組みや審査の厳格度を探究することができた。 こうした取り組みを通じて、上記の目的の達成することで、憲法上の最低生活の動態性と普遍性を明らかにすることができた。
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