最終年度に実施した研究の成果として、次の二点が挙げられる。第一に、適正な自己情報の取扱いを受ける権利(以下「適正自己情報取扱い権」という)としてのプライバシー権と法律の留保の関係を整理した。初年度の研究実績から、抽象的権利の司法権による具体化の障害となりうる「立法」(憲法41条)の概念を法律の留保を手がかりに検討しようとした。が、そもそもプライバシー権を適正自己情報取扱い権と捉える立場では、法律の留保の捉え方次第ではそれが機能しないおそれがあった。したがって、予備的考察としてその点を考察した。その結果、法律の留保が機能しない場合も、同権利に含まれる適正な自己情報の取扱いを担保するための措置を求める権利から派生するものとして、法定を求める権利を導出できることを明らかにした。プライバシー権についての上記理解が抱える課題の一つを解決した点で、その理解が判例に親和的であることに鑑みれば、学術的のみならず実務的にも意義を有する。 第二に、上記の理解を具体的な場面で検証すべく、刑事捜査におけるDNA型鑑定及びその結果のデータベース化に根拠規範たる法律が必要であるか否かを考察した。そして、当該法律が必要であって現状は必要とされる規律密度を有する法律が存在しないことを明らかにした。また、その過程で法律の留保と刑事手続法定主義(憲法31条)は規制(手続)規範の要否という観点から区別が可能であることを示した。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、次の三点である。第一に、プライバシー権における抽象的権利の理解を、手続的権利に限定することなくより適切なものに修正できた。第二に、抽象的権利の具体化に関する裁判例の動向が明らかになった。第三に、立法と司法が交錯する法律の留保について、プライバシー権との関係で知見を深められた。これらは司法による抽象的権利の具体化を論じる前提として重要である。
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