研究課題/領域番号 |
20K22058
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
磯村 晃 大阪大学, 法学研究科, 助教 (30870878)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 執行権概念 / 議院内閣制 / 権力分立 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、執行権に対する議会少数派の統制とりわけ政府を支持しない議会反対派の統制を実効的なものにするためにどのような理論が提唱されているのかを明らかにすることである。その一環として本研究では、比較法研究の手法を用いて議会反対派による実効的な執行権統制の議論が盛んに行われているドイツの判例・学説を分析している。 ドイツでは、例えば第18立法期の連邦議会のように、与党が全議席のうちの8割近くを占める巨大連立政権(「肥大化した大連立」)が誕生した結果、議会反対派はわずか127議席を獲得するにとどまり、基本法で予定された少数派権行使のための定足数(最低でも158名)を確保できず、よって少数派権をそもそも行使できない状況に陥った。そこで、議会反対派の左派党会派(原告)は、このような肥大化した大連立の下でも執行権に対する実効的な統制手段を確保すべく、連邦議会(被告)は基本法改正によって「反対会派専属の権利」を基本法に導入すべきところ、それを怠ったことによって原告により主張される権利・義務を侵害したとの訴えを連邦憲法裁判所に提起した。 令和2年度に実施した研究では、この左派党会派の訴えを棄却した2016年5月3日の連邦憲法裁判所の判決(反対権判決)を分析した。その結果、連邦憲法裁判所は、基本法に反対会派専属の権利を導入することは、基本法で予定された議員およびその結合体(例えば会派)の平等原則に違反するとした。この判決が学説の側で論争を引き起こすことになったのである。 ゆえに、令和3年度には、上記の反対権判決についての主要な学説を分析し、そこでどのような議論が戦わされているのかを検証する。以上の比較法研究の成果については、当該年度中には公刊の機会を得たいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況の報告対象期間となる令和2年度の間に外国の研究者による講演会原稿の翻訳を担当しそれを公表する予定であったが、コロナ禍の状況の中で同研究者による講演会の開催そのものが叶わなかった。また、申請当初に計画されていた外国での研究調査も、コロナ禍が深刻化する中で2021年1月28日にEU(ヨーロッパ連合)が日本からの渡航を原則禁止する措置を講じたことによって見送ることを余儀なくされた。外国(とくにドイツ)で実施される予定であった資料収集や本研究で取り上げる予定をしていた学説の主唱者との意見交換・質疑応答なども未だに実現できていない。こうした諸々の予期せぬ事情が重なったこともあり、本研究の進捗状況は、申請当初に立てられた計画からやや遅れをとっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の遂行に残された期間である令和3年度には、判例から学説の分析に重点を移して研究を進めたい。近年、連邦憲法裁判所は、基本法に「議会反対派専属の権利」を導入すべきとの野党会派からの請求を棄却する判決を下した。同判決の論拠づけ、とくに議会反対派専属の権利を基本法に導入することは特定の会派を優遇することになり、基本法38条に基づく議員およびその結合体の平等原則に違反するとの判示をめぐって、ドイツ公法学では論争が起こった。今後は、この論争に焦点を当て、ドイツ公法学において少数派権なかんずく議会反対派の権利がどのような意義を有していると考えられているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年1月28日に、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、EU(ヨーロッパ連合)が日本からの渡航を原則禁止する措置を講じた。これによって、令和2年度に支出が予定されていた費用のうち、海外とくにドイツへの出張費については、全額分の支出を次年度(令和3年度)以降に見送らざるを得なかった。 次年度以降は、申請当初の計画(とくに旅費の使用計画)を再度見直した上で、引き続き海外への出張可能性を探ることにする。もっとも、現在のように新型コロナウイルスの感染拡大がなおも続くようであれば、オンライン面接に切り替えるなどの代替措置も検討したい。
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