最終年度となる令和4年度においては、議院内閣制における政府統制の主体の一つと考えられる会派に焦点を当てた研究を実施し、比較法研究としての成果を上げることができた。その際、日本と同様に議院内閣制が採用され、かつ、会派に関する多くの研究成果が蓄積されてきたドイツにおいて、会派がどのような法主体として把握されているのかを、会派の法的地位をめぐる近年の主要学説に基づいて明らかにした。具体的には、会派の法的地位について近年のドイツで幅広く支持されている学説(スヴェン・ヘルシャイト学説)に着目し、同学説の詳細な分析に基づき、会派の法的地位がどのように理解されているのかを明らかにした。それによれば、会派の法的地位は、①会派が憲法(基本法)上どのように根拠づけられるのかを問題にする議論(憲法的基礎づけ論)、②会派がどのような法的性格を有するのかを問題にする議論(法的性質の確定論)の順に説き起こすことができる。そのうえでヘルシャイト学説によれば、①の憲法的基礎づけに関しては、会派が政党の地位を規定する基本法21条1項1文および議員の地位を規定する基本法38条1項2文を憲法上の根拠とし、②の法的性質の確定に関しては、会派は、議会の名の下で議会のために活動する機関としてではなく、会派自らの名においてまた時には議会に対して活動できる機関分岐体として性格づけることができる。ヘルシャイト学説の意義は、特に②の法的性質の確定論において、会派が機関分岐体であることを法的に論証し、その結果として、とりわけ議会との関係で、会派が場合によっては議会全体を活動させる法主体であること解明した点に認められる。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果として、日本においてもドイツと同様の会派の法的地位論を、憲法的基礎づけ論、法的性質の確定論の順に説き起こすという解釈論上の可能性を明らかにしたことが挙げられる。
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