研究課題/領域番号 |
20K22062
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研究機関 | 中央学院大学 |
研究代表者 |
木村 健登 中央学院大学, 法学部, 講師 (90879701)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 取締役の責任 / 補償契約 / 役員等賠償責任保険 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究課題である「財務危機状態における取締役の責任減免制度」に関する検討のうち、会社法改正の内容を踏まえたわが国の現状についての分析・評価に中心的に取り組んだ。その成果はおおむね以下の通りである。 第一に、財務危機状態にある企業の取締役が直面することとなる主要な責任リスクとして、わが国では会社法429条1項に基づく責任(対第三者責任)が想定される。このような理解を前提に、①実際の裁判上はどのような行為をした(あるいはしなかった)取締役につき同条の責任が肯定されているのか、および②そもそも同条に基づいて責任を負わされた取締役を「救済」することが正当化され得るかの二点を明らかにすべく、先行裁判例の網羅的な分析・検討を実施した。その成果として、近時は他の取締役に対する監視義務違反や、いわゆる「内部統制システム構築義務違反」との関係でも会社法429条1項の責任を認める例が散見されること(①)、ゆえにそのような責任との関係で取締役に「救済」を与えることは十分に正当化され得ること(②)の二点を明らかにした。 第二に、上記「第一」の成果を前提に、会社法429条1項に基づく取締役の責任との関係で、わが国において現状十分な保護が提供されているかについての検討を実施した。その成果として、わが国の会社補償制度(同法430条の2)は、そもそも会社法429条1項の責任に対する補償を認めておらず、また役員等賠償責任保険(会社法430条の3)についても、商品設計上の問題から、当該責任について「完璧な」保護を提供するには至っていない。それだけでなく、わが国には取締役の責任減免にかかる「倒産法上の」制度も一切存在していない。以上を踏まえ、わが国では現状、取締役の(会社法429条1項に基づく)責任との関係では十分な保護が提供されておらず、ゆえに何らかの法改正等が必要であるとの結論に達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスの感染拡大の影響が長期化し、移動を伴う研究活動がほぼ全面的に制限されたため、当初の計画通りには研究が進展していないのが現状である。 とりわけ、外国法関連の(場合によっては渡航を必要とする)資料収集に著しい支障が生じたため、現状では日本法の現状分析およびこれに対する検討が完了するに留まっており、その点では当初の研究計画からは若干の遅延が見られると評価せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究方針として、第一に、今年度の積み残しである外国法(とりわけカナダ法)の分析・検討を実施することを予定している。具体的には、カナダ法においては、財務危機状態にある企業の取締役が負うこととなる責任リスクを軽減するための措置として、倒産法上いくつかの制度が用意されていることから、それら諸制度の内容および射程について、比較法的方法論を用いて(わが国にも当該制度を導入することの是非という観点から)検討を行っていくことを予定している。 第二に、上記「第一」の成果を踏まえ、わが国において取締役の(会社法429条1項に基づく)責任との関係で十分な保護を提供するためには、どのような法改正(あるいは解釈論の変更)が必要となるかについての結論を提示し、これを論文の形で公表することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、①移動を伴う研究活動がほぼ全面的に制限されたために旅費を支出する機会が一切なく、また②物品費の支出先として想定していた「図書購入」についても、所属研究機関の設備のみでは外国法(特にカナダ法)の書籍の検索・閲覧を行うには十分ではなく、必要な資料を購入・入手する上での前提環境の整備が、本年度の特殊な状況下においては十分に行い得なかった。 そのため、これらについては次年度に繰り越し、金銭面での憂いなく集中的に研究に打ち込める環境を用意するのが最善であると判断した。 もっとも、旅費については次年度も引き続き執行が困難であることが予想されるため、他の費目(物品費等)に振り替えて使用することも検討している。
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